我は退屈していた。
誰も我らを顧みる事が無くなってきた世界で。我は今までの事を顧みる。確かに、この世界での生活は、幸福に満ちあふれたものではなかった。
何故、この様なつまらぬ世界となってしまったのだろうか?我は分からぬ。
「我が国の国旗にもあるように、
天照大御神が……」
間違った解釈を持って、この国を気づかぬうちに貶めようとする者もおる。
我らは、この様な世界にするためにこの国を創った訳ではないのだ。何故、それが分からぬのだろう?我はわからぬ。
確かに、我は子供達にこの世界を任せた。我は見守る事しかできぬ。我らはあの者らの知らぬ所で事実、存在している。
しかし、このままでは居ても意味のない存在となってしまうのであろう。何故、その様な世界になったことを我が子供達は放っておくのだろうか?我は分からぬ。
我は最愛の者を失ったばかりか、黄泉の国で再び相見えた時、我が最愛の者は不の感情にまみれた異なる存在になっていた。その、我が最愛の者の名を、
伊弉冉尊(という。我が妻であった伊弉冉は多少愚かな部分があった。
我よりも先に婚姻の際に言葉を発したのだ。「あぁ、なんと美しい男なのでしょう」と。あれは確かに愚かであった。この事が後々の忌々しい出来事に繋がっていったのだろうと我らは信じているからだ。
だが、我がそうと信じていたものも、今は分からぬ。
この世界では、男と女は平等であるという考えが一般的になりつつある。我には、その様な考え方は全くなかった。何故、その様な考えが主流になろうとしているのか?我は分からぬ。
我らの創りし世界であるはずなのに、何故こうまでも我らと異なるのだ?我らの理解の範疇を何故、越えてしまったのだろうか?
しかし、待て。そなたはそう言った考えが真実であると思っておるのか?
このように進んでいってしまった原因が己にあるとは思わないのか?
そなたが言う事はいつも正しいとは限らぬ。そなたもあの者らと同じく意志を持ち、感情を持つものである。
その性質を持っている限り、「必ず」ということは有り得ないのだ。
この世界を見捨てる、或いは消すといった事をそなたはしてはならぬ。そなたが創り上げた世界、そなたが見つけた世界である。
この世界が寿命を終えて消えるまで、そなたには責任と義務が課されているのだ。
我はこの世界はもう厭気が差しているのだ。
そんなにもこの世界を想うておるのであれば、おぬしが見続けていれば良いであろう。
我はもう限界である。
この世界は何か?
我の創りし世界である。
それは、そなたの子供も同然ではないのか?
それならば、蛭子の時と同じように捨ててやろうではないか。
それは、「諦め」と「逃亡」ではないのか?
そんなもの、我は知らぬ。
「知らぬ」か。
そなたが言っておるのは、自らをも否定し、謀っているも同然である事に何故気が付かぬのか!
今のままのそなたでは、また同じ世界を創るだけである。
学びもせず、成長もせず同じ事を繰り返すだけになるのであれば、現状を維持する事に専念するが良い。
もし、そなたがこの世界で起きた事を糧として成長するのであれば、そなたを認めようぞ。
お前こそ、我を謀っているように見受けるがこれは如何に。
我はこの世界の創り神ぞ。
何故、その我がお前にこんな事を言われなけねばならぬ!
その「我」とやらは、己自身だけであると思うでない。
我もそなたと同じである。我はそなたの鏡。
故に、我はそなたでもある。
その様なまやかし事、誰が聞くか。
我は真実を言うただけ。そなたがどう思おうが、我には関係のない事。
……そう言いたい所であるが、今回はそうもいかぬ。
何故だ。
そなたは、何も学ぶ事の無い内にこの世界を消そうとしておる。手遅れになる前に、手を打たねばならぬと我は思うたからだ。
逆に我が聞きたい。何故学ばぬ?何故成長せぬのだ?
この長い時を経てなお、成長せずにその場で留まろうとする理由が分からぬ。
我らには責務があり、この世界を捨てる事など思いつく訳がない。
だのに、どうしてこの様な事態にならねばならなかったのか。それが我には分からぬ。
以前より、そなたには何処か劣っているものがあるとは思っていた。しかし、それが何なのかは分からないままであった。
我が劣っているだと?この創造主である我が!
それは我の認識においてであって、実際はそうではなかった。
ごく最近になって、我は気が付いた。劣っている訳ではなかったのだ、と。そこで何が違和感の原因となっていたのかを改めて考えた。
すると、見事に解決したのだ。そなたには足りないものがあったのだ。
劣っているのではなく、何かが足りなかったと?
我に足りないものとは何か。
お前が理解して我が理解出来ぬ訳がない。
そなたに足りないものは、思いやり、優しさ、そして幸福感である。
幸福感を感じる為には、周囲の環境がものを言うが……思いやり、優しさが本人に欠けている状態で幸福感を感じる事は難しい。
本人に思いやりや優しさが欠けているという事は、周りの環境もそれ相応になってくる。
例えば、他の神や人間への考え。自分が一番であり、その下々はどうでも良い存在であるといった考えに近しいものをそなたは持っているであろう。その考えは良くない傾向である。何故ならば、そういう視線を受けた側は不愉快な思いをするからだ。
先程、そなたも「我はこの世界の創り神ぞ。」と我に己の方が目上であると発言したが、それは自分が我よりも目下にも取れる発言を聞いたからであろう?
それと同じような事が彼らにも起きているのだ。
しかし、我が創世者である。
……その驕りが命取りになるのだ。そなたは自身を見直すべきである。
それができぬというならば、ずっとこの世界に留まっておれ。他の世界を創っても意味がないからだ。
我は構わぬ。そなたがこの世界に留まり続ける限りは。しかし、この世界を半端なまま終わらせ、また同じような世界を創るのであれば。
我は、こうしてまた顕れようぞ。
もうよい、もうよい。
我は疲れた。この話は止めにしようではないか。
何故。
お前との対話は疲れる。我の意思が消えていく。
我はここで永遠に、何もせず居ればよいのだろう?
ここに居続けてやろうではないか。何もしないがな。
それでは、我が出てきた意味が無くなってしまうではないか。
我は何のためにそなたの目前へと顕れたのだ?意味のない行動は、無いはずなのに。
我は、そなたの考えを変えさせるためにやってきたというに、そなたは諦めると!
それがお前と話を続けた結果であろう。我は疲れた。
この世界を滅ぼして、我は眠りにつきたい。そう思っているのを、何もしないで居ようと言っておるのだ。
少しはましになっているであろう。
それだけでは、いかんのだ。我は、そなたに……
幸せになって欲しいのだ。
幸せになれ、と?
何故、我にその様な事を言う?
我は、幸せに近しい時のそなたを知っておる。そなたは輝いていた。
力も一層、素晴らしいものであった。
そういったものを、我はそなたから感じる事ができたのに、今は全く感じられぬ。我は、それは勿体ない事であると思っている。
だから我は、そなたに幸せな時を取り戻して欲しいのだ。思い出させてやりたい。どれほどにそなたが幸せだったのかを。
そなたが幸せであった時、この世界はどうなっていたのかを。
もう、遅いのではないか?我は、幸福を感じる機会を失った。
元に戻る事は不可能である。
まだ、手遅れではない。
これから改善してゆけばよい事。
しかし……
変化は恐ろしいか?変わるという事に恐怖を感じているのではあるまいな。
変化は恐ろしい事だけではなく、喜ばしい事でもある。
よい方向へ向かう変化であれば、恐ろしくも怖くもないであろう。
我は、どうすれば変われるのかも分からぬ。それを考える機会もない。
我には……幸せどころか、何がよい方向であるのかも分からぬのだ。
新たに、全てをやり直す意思と決意はあるか?
もしもそなたが今までの考えを悔い改め、改善していきたいと思っているならば、我は手伝おうぞ。
それには我らが邂逅した際の、当初の会話でそなたが主張していた考えを撤回することが必要である。
現在の状況から「逃げる」のではなく「立ち向かう」と誓えるか?
誓えるならば、我はそなたの支えとなろう。
そなたが望めば、我はそなたの味方となり手足となろう。
お前は我を手伝うと……?
ならば、我は悔い改め、以前の考えを撤回すると誓おう。そして、我はこの状況へ立ち向かうと誓おう。
我はお前があまり好きではない。しかしお前は我に従おうとし、より我を真実へと導こうとする。
そのお前の姿に敬意を。
では、我はこの世界の守人となろう。そなたは新しく世界を創るのだ。
新しく創った世界を、この様な世界にせぬように我は助言をしよう。
我に新たな世界を創らせてもよいのか?我は……
そなたが悔い改めれば、よい方向へ変化してゆくだろう。
さあ、今度こそ失敗のないよい世界を創るのだ。
我はそなた、そなたは我である。異なる世界に存在するものとなりても、常にお互いを知る事ができよう。
これがそなたの新たな世界か。
同じ轍を踏まぬように、お互いに精進していこうではないか。
お前の意思を無駄にせぬよう、我も努力していく事を誓おう。
我は幸せになりたいと、以前から思っていたように今更ながら感じ始めたのだ。我は、この世界を不幸なものにしたくないと思っておる。
我はこの世界に光をもたらそう。我が世界には均等に、等しい光をもたらそう。何かを起こす事によって、多少なりとも幸せなものが現れるのであれば、我はその事象を取り纏めよう。
一部のものだけが、不幸せになるような事は出来る限り取り除こう。我は、それをする責任がある。
その事を、我はお前に教わったのだ。
そなたがそう思えるようになった事を、喜ぼう。我は、心底嬉しいと思っておる。
我が分身よ、我が比翼よ。我らの絆は永遠だ。
そなたが苦しい時、困難にぶつかった時、我は助けに行く事を誓おう。
しかし今は、そなたと再び相見える事を祈り、眠りにつくとしよう。
何故眠りにつく?
我の力は、そなたに譲る。故に、我は眠りにつかねばならぬ。
力が戻れば、目を覚ます。
伊弉諾よ。我は、そなたをずっと昔から……今も、そしてこれからも永遠に愛している。
そなたが、その事を忘れずにいてくれる事を祈って眠りにつこう。
我が比翼よ、我は願う。何時の日か、そなたと共に幸福を……
了
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