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おとうさんはこくおーへいか
私のお父さん。
私のお父さんは、こくおーへいかです。
いつも、お部屋でペンをもっています。
とても大変そうだけど、わたしがさみしそうにしていると、いっしょにあそんでくれます。
・・・・・・
でも、そのあとはクライヴにお父さんがおこられてしまいます。
クライヴはとてもまじめなひとなので、しごとがじかんどおりにすすまないと、おこるのです。
ずっとこのままだと、お父さんがかわいそうなので、早く大きくなってお父さんのおしごとを、てつだってあげたいです。
そのまえに、はやくちゃんとしたもじをかけるように、おべんきょうしなきゃいけません。
・・・・・
わたしは、にんげんじゃないので、もじをかいたことがありませんでした。
おしごとをするからには、お父さんのようにじょうずなもじをかけるようにならないといけないと思っています。
それには、たくさんかくことがひつよーだって先生にいわれたので、こうやってかくことにしました。
・・・・・・
さいごのほうになりましたが、私はお父さんにたいして大きなやぼーをもっています。
それは、おおきくなったら、 お父さんにはおよめさんがいなくてかわいそうなので、私がおおきくなってもおよめさんがいなかったら、私がおよめさんになってあげようってっことです。
私はお父さんのほんとーのこどもじゃないので、もんだいありません。
ということで、私はどんなときでもお父さんのちからになれるようがんばります!
シャリーア
「何だ、これは」
「知らん。俺自身、こちらには久々に来たんだ。
気になるならシャリーアに直接聞けばいいだろう」
二人の男が向かい合って話をしている。ここは、とある国の執務室。青い髪の男がこの国の王、アーシェスで黒い髪の男がアーシェスの親友、クライヴである。事の発端は、アーシェスの持っている一枚の羊皮紙だった。その羊皮紙には、前述のような内容の文章が清書もされずに書き連ねてあった。これを書いたのは、人間で言う十二歳程度の子供――アーシェスの義娘であるシャリーア――であった。
人間で言えば十二歳程度ではあるが、内面がとても幼い。そして、少しだけ頭が悪かった。赤ん坊の頃、あまり良い環境とは言えない場所で育ったのが原因かもしれない。だが、徐々に年相応の考え方になってきた。もう少し時間はかかるかもしれないが、大人になる頃には、周りと変わらぬ容姿に中身となるだろう。これは彼らとの生活がうまくいっている事を示していた。
「しかし、軽く三百を超える年になったのにまだこの様子か。
先は長そうだな」
そう言う元保護者のクライヴであるが、表情は柔らかい。少しであれ、成長する子供を見るのは嬉しいものである。
「まあな。だが、シャリーアは可愛い盛りだぞ!
もう少ししたら、シャリーアが来る。しっかり直接見て、その可愛らしさを堪能すると良い」
この瞬間、偉大なる王はただの親バカとなった。彼を尊敬し敬う奴らにはとてもじゃないが見せられない姿だ。
「ほっぺは柔らかくて触り心地は良いし……
あの大きな瞳は何もかもを吸い込んでしまいそうだ」
「……分かったから」
「クライヴ、お前だって分かるだろう?
あの天使の微笑みがどれほど俺たちを癒してくれるか!」
「もう、分かったから……」
娘大好きスイッチが入ったアーシェスは止まらなくなった。クライヴはあまり気が長い方ではない。だが、クライヴは堪えた。ここは自分のいるべき世界でないのだから、派手に暴れられない。耐えるんだ。耐えろ。
「だめだ、待っていられない!
シャリーアを呼んでくる!!」
ふっ……
口だけでなく身体まで動かし始めた親友に、真面目で短気なクライヴが耐えきれるわけがなかった。
「……ここで静かに仕事をしろっ!
そんなお前には、あの娘は預けられん!!
俺が連れ帰る。こんな所できちんと成長できるか!」
「あ、クライヴー!」
扉からひょっこりと顔を出したのは、先ほどから話題のシャリーアであった。少女の現在の保護者はまだカーペットの上をのたうち回っている。よっぽど痛かったのだろうか、それとも愛する娘にドア越しに攻撃されたのが心に堪えたのだろうか。恐らく前者であろうとクライヴは思った。ドラゴンの血を多少なりとも継いでいるシャリーアは力があるのだ。そのせいで、力任せに扉を開けると、かなりの衝撃がぶつかった側に与えられるのだった。
「あれ? あ、アーシェスどうしたの?」
足元に転がっている養父を見遣り、不思議そうに首を傾げる。声を掛けられた事で、娘がいた事に気が付いたアーシェスは勢いよく立ち上がった。
「いや、ちょっと耳飾りを落としてね。
拾っていた所だったんだ」
間違っても開いたドアにぶつかって痛みに悶えていた、等とは言えなかったようだ。格好付けなくても、変わりはしないのに。とクライヴは隠れて溜め息を吐く。
「私がかいたやつ、どーだった?」
少女はアーシェスの不審な行動に関心はなく、それよりも感想を聞きたくてそわそわしている。痛みから復活したアーシェスは、羊皮紙を取りに戻った。その後ろをシャリーアがついて行く。その様子は本当の親子のようであった。
「これなんだがな。
何で内容が全部俺の嫁さんの心配とか、仕事の心配とかなんだ?
そこまで心配されるようなものでもないと思うんだが」
「だめだった?」
「いや、そうじゃないんだ。
ちょっと……こんな心配ばかりされている自分が情けなくて」
うるっと見上げてくる愛娘に、勢いよくかぶりを振って返事をする男。近くでその様子を見守っているクライヴは親友の情けない姿に、溜め息が止まらない。周りから偉大なる国王陛下と呼ばれる男は、可愛らしい少女を抱き上げる。少女は嬉しそうな声を上げた。
「シャリーア、手助けをしたいと思ってくれるのは助かる。
だがな、お前にはもっと生活を楽しんでもらいたいんだ。
今は俺の子供として、のんびり育ってほしい」
「でもー
私、だってやれることはあると思うの」
「それが、育つ事だよ。
何も心配せず、笑顔でいてくれ」
それでもまだ納得がいかない様子のシャリーアに、アーシェスはクライヴへ助けを求める視線をやった。
「シャリーア」
「なぁに?」
真面目で厳しいが、それが優しさの上に成り立っている物だという事をよく知っている少女は、言葉を発した彼の方へ頭を向けた。
「お前が心配する必要など、どこにもないんだ。
子供なんだから、もっと甘えてやれ。
その方が俺たち大人は嬉しいんだ」
いつの間にか二人の側まで来ていたクライヴが、シャリーアのピンク色の頭に手を乗せた。その大きな手で頭を撫でると、シャリーアがくすぐったそうに目を細める。
「まだ、そのままでいてくれ。
その無邪気な笑顔があれば、俺たちは頑張れる。
それに、心が安まるよ」
「ん」
「良い子だ」
小さく頷いたシャリーアに、クライヴが微笑む。彼が少女の目の前へ両腕を出すと、少女はその腕へ納まった。自分の腕から離れてしまったシャリーアを、少し名残惜しそうにアーシェスは見た。だが、当人は気が付かない。
「よし、利口な子供には俺が力の使い方を教えてやろう」
「はーい!」
そう言うなり、二人は部屋から消えた。残ったのは言うまでもなくアーシェスだ。一人残されたこの男は、寂しそうに呟いた。
「俺って一体……」
一度、溜め息を吐いて仕事机の上に腰掛ける。行儀が悪いが、子供が見ていなければ良いのだ。そう、心の中で言い訳をした。
「こんなんで、ちゃんと育てていけるのかな」
かれこれもう数百年に渡って面倒を見ているが、不安になる時はなるのだろう。再度、溜め息が聞こえた。
「もう少ししたら、きっと『将来はクライヴのお嫁さんになるの!』とか言うんだろうな。
あぁ、切ない……」
できれば、この暖かな時間が永遠であってほしい。ずっと。
お父さんへ。
お父さんと、改めて呼ぶには抵抗があるのですが。
ていねいな言葉を勉強しました。なので、それを使って書いてみようと思います。
お父さんは、優しくて頭がよ賢くて強い王様です。
私の目標は、そんなお父さんのサポートをできるようになることです。
この前、そういった内容の文章を書いたら、そんなことは考えなくていいとあなたに言われてしまいました。それからすこし考えました。
その結論ですが、やはり先ほど書いたとおりです。
何を言われようと、私はあなたのとなりであなたの役に立ちたいのです。
きっとこの文章を読んだら、あなたはまた同じようなことを考えると思います。
でも、これは今の私が考える、一番やりたいことなのです。
なので、文句はゆるしませんよ。お父さん。
愛娘で将来のお嫁さん、シャリーアより
END.
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