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〜プロローグ〜

 宇宙を駆け抜ける船が数隻。後方にいるのは警察艦隊のようだ。先頭切って駆けるのは、警察艦とは異なる形状の船であった。といっても、普通のバトルシップやプライベートシップとも違う。卵形で一見有機物を思わせるフォルム。そして一対の光のように輝く翼。その様な形状は、現在登録されている船艦には存在していない。この船は未確認船艦だったのである。
 未確認船艦は軍または警察によって拿捕され、船の検査を受ける事となっている。そして異常がないと確認され次第、データバンクに登録されるのだ。勿論、このデータバンクに登録する事は搭乗者およびその持ち主の義務とされている。その為登録をしていなければ、それが発覚した場合ペナルティを課される。ペナルティの種類は様々な為、ここで限定しての説明はできない。
 そう。正に今、警察艦隊は未確認船艦を拿捕しようとしていた。警察艦や軍艦は一般人が所有出来る、それ以上の速度が出るように設定されている。常に最新のバトルシップが採用されているからだ。つまりこの艦隊に追われたら残念ではあるが捕まるしかない。
 しかしながら、例外もある。高位空間(ハイ・スペース)へと逃げられた場合だ。ただ、高位空間へ行く時には幾つかの条件がある。それを満たすまでは移動できない。大抵はその条件を満たすまでに捕まえてしまう。元から普通の船には勝ち目がないのだ。
 しかし、今は。直ぐに追いついて拿捕するはずの船艦が、この不思議な船には追いつけないでいた。追いつくどころかどんどん距離が離れていく。このままでは逃げられてしまう。そう判断した警察艦隊は、威嚇行動に出たのだった。
 一方、その未確認船艦のコックピットでは二人の乗船員が何やらもめている。
 一人はレオタードに着物という不思議な組み合わせのファッションをしている十四・五歳に見える少女。少女の髪色は見事なシルバーグレイであったが、髪型が変わっていた。前髪は中央へ集まり、横の髪の毛は左右でそれぞれ纏められていたが、毛先がカールしている。後ろ髪はストレートロングヘアであった。が、毛先だけカールしている。
 もう一人は猫眼が特徴的のやや中性的な二十四・五歳に見える青年だ。ハニーブラウンの髪に、ワインレッドの瞳が調和を生み出している。服装は少女と正反対で、一般的なファッションとなっていた。誰もが普通の好青年であると思うだろう。
 しかしその二人は現在、追われていた。
 「距離、百。威嚇射撃、来ます。
 何で私の言う事を聞いてくれなかったんですか!」
 少女の声に、青年がブツブツと小言を呟く。この船の後ろを追う船艦が空砲を装填する。
 「威嚇かよ。一応全部避けるぞ。
  知るか、んなもん」
 警察艦隊に追われているには緊張感がやや足りないが、この二人にはもめている方が重要であるかのように見えた。追われている事自体に、焦りや緊張はみられない。
 青年が操縦席に座り、少女はその後ろに立っている。普通ならば、戦闘中席から立つなど有り得ない事であった。それだけ余裕があるのだろう。
 「距離、百三十。今度は一斉射撃、来ます。
  だから私は嫌だったのにぃぃ!」
 「全回避!
  念の為だ、弾幕張っとけ」
 少女の叫びは気にせず、青年は言った。二人とも不機嫌そうな顔をしてはいるが、焦っているからではない、もめているからだ。
 こうしている間も、着実に警察艦隊との距離は開いていく。青年は高位空間へ移動することなく、このまま逃げ切るつもりのようだった。それを知ってか、サポートに回っている少女も、高位空間へ移動する為の準備をする気配がない。
 その時、船体が大きく揺れた。運悪く、警察艦隊からの射撃が命中したようだ。左翼の一部に穴が穿たれた。不思議な事に、左翼から光の羽が散っているのが見える。
 「くっ、左翼に被弾!
  痛いです、マスター。二十%出力低下」
 「マスターじゃねぇ。レープハフトと呼べ!
  仕方ねぇなぁ……プラハト。まだ、飛べるな?」
 少女は左腕を押さえながらも頷いた。
 次の瞬間、船は姿を消した。高位空間へ移動した気配はない。残ったのは、突然の事に戸惑う警察艦隊が数隻であった。



 「だーかーらー言ったじゃありませんか!!」
 少女の声が艦内に響き渡る。怒鳴られた側である青年は素直に謝る。と、思いきや――
 「確かに、追いかけられたがそれとこれは別だ」
 謝るどころか、しれっと言い返した。腕を組んでふんぞり返っている。そんな様子にプラハトが冷静になるはずもなく。
 「マスター、この船は特別なんですよ!?」
 「あれは俺が今まで使っていた愛機だぞ!」
 だからマスターって呼ぶんじゃねぇ。レープハフトだ。と青年はぐちぐちと言った。プラハトはそう呼ぶつもりはないらしい。二人の口論は、彼の屋敷に置いてある船艦が発端であるようだった。
 「それを……分解してこの船の部品にするなんて、嫌に決まってんじゃねーか!
  お前だって、この船バラされちゃたまんねーだろ?」
 レープハフトはプラハトを説得にかかった。このままでは話が前に進まないからだ。
 「バラされるのは、ご免です。痛いんですから。
  ……じゃあ、この船体をカモフラージュするための部品を買ってきて下さいよ。
  そうしてくれないと私も、このフロイラインも、あなたのお手伝いができないんですから!」
 折角眠らされていた所を見つけてもらったのだから、役に立ちたいんです。プラハトにそう言われると彼は弱ってしまう。しかし彼には――
 「そこまでの金銭的余裕はない」
 そういって肩を落とすと、プラハトは掌を合わせて微笑んだ。今にも飛び上がりそうなほど、喜んでいるようだった。瞳がキラキラと輝いている。
 「ということは、解体オーケーって事ですね!」
 青年、レープハフト。女子供と押しに弱い男であった。




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