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〜エピローグ〜
目は覚めていたが、まだごろごろとしていたい。そんな風にもたもたしていると、いつものようにスピーカーのスイッチが入った。
「おはようございます、レープハフト」
スピーカーから可愛らしい声が聞こえてくる。プラハトだ。
「あぁ、おはよう。
今日の朝は何だ?」
「今日はですね――」
他愛もない会話を楽しむ余裕のある朝は気分が良い。レープハフトとプハトはヴェルクンテルネーマーとして一定の仕事をこなしながら、日々を自由に暮らしている。レープハフトは寝巻きから着替え、部屋を出た。
キッチンでは、プラハトが料理を作って待っていた。少女は可愛らしいフリルのついたエプロンを纏い、テーブルへと料理を運ぼうとしている。レープハフトはさり気なくその料理をプラハトから奪うと代わりにテーブルへと並べ始めた。
そんな様子にプラハトは微笑み、料理を運ぶのはやめてコーヒーを淹れ始める。
「いただきます」
和やかに始まった朝食タイムに、突如としてアラームが鳴り始めた。
「陛下より通信が入りました。
開きますね」
そう言うなり、キッチンの冷蔵庫脇にあるディスプレーから見知った顔が表示された。
「朝食中に失礼するわね」
あの護送の依頼を無事に終えてから、女王とは親しくするようになった何回か、護衛や護送の依頼も請けたし、他の依頼も請けた事があった。
「頼みたい事があるの。良いかしら?」
遠慮がちに聞いてくる女王の様子に、二人は顔を見合わせた。
「条件や、その内容によるが」
「とりあえず話してみたらどうでしょう?」
二人が親しくしてもらっている女王には、やはりできる限りのサポートをしたいと思うのは当然だった。女王は二人の言葉に安心したのか表情が先ほどよりも柔らかくなっている。
「とある子供を預かっていてほしいのよ。
教育費はプラハトが居るから要らないでしょうが、食費などの様々な必要経費はその都度私が負担するわ。
報酬は一週間単位で支払うつもり」
「条件だけなら、良いな。
で、その子供ってのは?」
レープハフトはさらりと流す。プラハトもこれには反対する理由もない為、そのまま女王の方を向いている。
「とある子供というのは、クリストフの子供よ。
彼の妻がこの前亡くなってしまって……
でも、育ててくれる人は私の信頼における人物が良いし」
でも、育ててくれる人は私の信頼における人物が良いし」
女王は言葉を続ける。
「申し訳ないとは思っているの。
二人とも……その、お年頃だから。
二人だけの空間に第三者を、子供だとはいえ割り込ませることになると考えると。ってね」
本当に申し訳なさそうに言う女王に二人は固まった。両手の指先を合わせながら返事を待つ女王。言われた事の衝撃から戻って来れない二人。少しの間気まずい沈黙が流れた。
先に復活したプラハトが女王に言う。
「あの、陛下?
勘違いなさっているようですが……私たちはお互いに最高のパートナーであると認識してはいます。
でも、その……恋人とかそういった対象としては見ていないの」
「そーだぞ。俺にとってプラハトは大切な家族なんだ。
それに、愛してはいるんだが……そういう愛じゃねぇ」
少し遅れて復活したレープハフトもプラハトと似たような事を言った。 複雑な雰囲気が三人を取り巻いていく。それを打ち破ったのは年長者であるプラハトだった。
「きっと私はレープハフトが死ぬまでずっと一緒よ。
私は家族として彼の側に居続けたいの」
でもレープハフトが彼女を連れてきたらいじけちゃうかも。とくすくすと笑いながら言う。それにつられてレープハフトもプラハトが彼氏を連れてきたら思わず殴っちまうかも。と笑った。
「それは洒落にならないからやめて下さいね?」
そんな事は全く思っていないくせに、プラハトは言う。女王がそんな二人を見て耐えきれずに笑う。
「あなた達二人の距離は、複雑なのね!」
「これぞ真の『付かず離れず』って奴ですよ」
プラハトは無駄に偉そうにしている。レープハフトは愉快そうに笑っている顔のまま女王に言った。
「まぁ、そう言うわけだから……
その依頼請けてやっても良いぞ」
「もちろん私も歓迎しますよ!」
付け加えるように、プラハトも言った。二人からの快い返事を聞け、女王も嬉しそうにしている。
「ありがとう、二人とも!
新しい家族をよろしくお願いしますね」
そして二、三、言葉を交わすと朝食中に失礼したと詫びをして女王は通信を終えた。
「うーん。
あぁは言いましたけど、本当に私たちが子供を育てる。なんてできるんでしょうかねぇ?」
朝食を終えて一段落した時に、プラハトが呟いた。その声色に青年は己の口中に入っていた飲み物を吹き出しそうになった。
「おいおい……大丈夫だよ。何とかなるって」
「そう、ですよね……うん」
レープハフトはプラハトの頭をぽむぽむと軽く叩く。そうされることが好きなのか、少女はうっとりと目を閉じた。
「レープハフト。
新しいお部屋、作ってあげましょうね」
「あぁ」
少女は未来の姿を夢見ているのか、微笑んでいる。
「家族を迎える準備って、諸経費になるのかしら?」
「さぁな」
青年は少女の言葉に相打ちするだけで、わざわざ話を広げようとはしなかった。嫌な予感がしていたからだ。
「レープハフト、念の為に……」
少女が青年を見上げる。その瞳には「お願いモードになりました」と書いてある。
「お仕事、頑張って下さいね」
「うっ、そりゃないぜ……」
こんな二人の所へ、子供がやってきて更に賑やかになるのは数日後。その子供の教育やその他諸々の方針で二人が喧嘩するのも数日後。
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