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【4月】涙の(?)結婚式
フィリオーネは呟いた。
「とうとうこの日が……」
今日はフィリオーネと帝国の第一皇子との結婚式である。フィリオーネは美しくも強い帝国とこの国の良さを交えた、金属的ではあるが、とても柔らかい印象を受ける衣装を身に纏っていた。
この結婚式ではフィリオーネが先に入場し、少し経ってから皇子が入場する事になっている。ライアスはどうしているのだろう?結局、何が何だか分からないうちにこの日がやってきてしまった。
フィリオーネは一歩進んだ。重臣や貴族がフィリオーネを見つめる。フィリオーネは複雑な気分だった。ライアスとはもう一週間以上会っていなかった。不安だからこそ近くで支えていて欲しいのに、そういう時にかぎって彼とは会えなかったのだ。皇子についての情報も殆どフィリオーネには流れてこなかった。どんな容姿でどんな性格であるかもフィリオーネはまだ知らないのだ。
もう少ししたら、皇子がやってくる。どんな人なのだろう?きっと、ライアスがこの人だって決めたんだから……いい人なのだろうと思う。ライアスの事はまだ信じているけれど。
ライアスの事は信じていたい。でも、詳しい事を何も言わないというのはあまりにも酷いではないか?グライベリードの姫として、帝国の第一皇子と結ばれるという事は政治上にも、そして国民の為にも有意義な事であるのは分かってはいる。帝国は勢力的に言えばトップなのだ。他の国とあまり関わらずとも自給自足が成り立つグライベリードは、その豊富な国産物によって侵略を免れている特殊な国ともいえる。侵略を考える国はあれど、実行に移せた国はない。そんな国であるグライベリードが持つ、最初の武器であり防具となるのが帝国という事になれば、侵略を考える国すらも無くなるだろう。
ということは、この国の安定が約束されるという事になる。おそらく、そう言った点をライアスは考慮しての事だろうし、それだけではないのだろう事もフィリオーネは理解している。それでも、政治的観念ではない方面でライアスがこの皇子なら良いと思える決定的なものが何だったのかは分からない。帝国が皇子の内の何人かからそういった類の書簡は届いていたのをフィリオーネは確認していたから、第一皇子でなけねばならない理由が分からなかった。
結ばれるなら、帝国の皇族ならば誰でも良かったはずだからだ。そんな事を考えている内に皇子が入場してきた。そしてフィリオーネのすぐ後ろまでやってきて皇子は声を掛けた。
「姫、お迎えにあがりました」
「え…っ!?」
聞こえてきた声は、ここ一週間以上聞きたくても聞く事が出来なかった声だった。
「ライアス…?」
フィリオーネの声は揺れていた。ライアスは、いたずらが成功したかのような顔をした。
「はい、帝国が第一皇子のライアスです。
サプライズ結婚式、ビックリしたでしょう?」
そういうライアスの笑顔はとても柔らかかった。そして驚くフィリオーネの頬に手を伸ばす。
「ビックリも何も……まぁ、いいわ……」
先程までの失態を取り繕うかのように言うフィリオーネは生き生きとしていた。
「で、何でこんな事に?」
フィリオーネはライアスへ説明を求めた。
「元々俺は帝国の第一王子で、結婚する相手を探す為に各国で宰相をしながら姫を見ていたんだ。
ただ、この国以外の王女や姫はみんな俺の好みじゃなくて。3ヶ月から半年行かないくらいまでしか同じ国には滞在していなかった」
ここでようやくフィリオーネはライアスが『恐らく私は長い事この国にとどまる事は無いでしょう。』と言った理由が分かった。そしてこんな事になった理由も。その後も色々とライアスの事情を聞き、フィリオーネは納得しつつ、頭の中を必死で整理していた。
「結局、こうして素敵な姫に出会えて良かった。
もうこのまま出会えないで世界一周してしまうかと思っていたから」
と苦笑混じりにライアスが言うのを見て、フィリオーネはとうとう笑ってしまった。
最初っから隣の国であるこの国に来ていれば良かったのに!と。
【後日談】姫と宰相の新しい日常
「リーン?」
フィリオーネは首をかしげている。
「フィリオーネ、どうかした?」
「あ、ライアス……リーンが見あたらないの。
全く何処に行っちゃったのかしら」
執務室からひょっこり姿を現したライアスにフィリオーネは答えた。今度はライアスが首をかしげた。
「リーンが何処にも見あたらないなら、きっと俺の部屋にあるベッドで眠ってると思うよ。
昔、俺が仕事に追われて執務室に籠もっていた時、リーンはそこでふて寝してたみたいだから」
フィリオーネはそれを聞くと、「ずるーい」と不満げに漏らした。ライアスはフィリオーネが拗ねている姿を見ると少し吹き出した。
「ははっ、しょうがないだろう。
俺は俺でグライベリードの国へ婿入りする為に、帝国の王位継承権を譲る書簡を作ったり、式の日取りやその他諸々の事務をしてて忙しかったんだから。
それに、リーンは俺があの中庭で見つけて以来、俺が面倒を見ている犬じゃないか」
フィリオーネは頬をふくらませた。そしてライアスは笑い出す。
「何だかあなたを独り占めされてるみたいで嫌だわ。
それに、私だってリーンの為にあの時は一日中走り回されたのよ?」
ライアスへと人差し指を立てて「リーンは少しくらい私の事を敬っても良いと思う!」と主張しているフィリオーネの姿は可愛らしいとしか言いようがなかった。
「私はフィリオーネ姫にそこまで想われているとは光栄の至り……ぷっ」
ライアスはフィリオーネの足下に跪くと彼女の手を取り甲へキスをした。そして微笑んで言葉を紡ぐが、やはり我慢出来ず吹き出した。途中まではフィリオーネも少し頬を紅く染めながら聞いていたが、笑い出したのをきっかけにとうとう怒り出した。
「もー、そうやっていつも私の事からかうんだから!」
「対等になれたからね。俺としても嬉しいんだよ」
「それとこれにどんな関連があるっていうのよ……」
フィリオーネはややげんなりしつつその言葉を受け取ったのだった。
Fin.
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