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第四話、フロイライン VS アクティヴィー(三)

 彼女は傷のせいか、目を閉じたまま反応がない。レープハフトはそんな状況なのに平然としているアルニムの様子にぞっとした。
 「お前のクロエ……」
 「なぁに、まだ死んじゃぁいないさ」
 相棒がそんな状態だというのに、軽すぎる彼の答えにレープハフトは絶句した。代わりにプラハトが話し始めた。
 「確かに死んではいないけど、致命的ね。
  だって、アンヘンガーなしに私たちの船を最大限活用する事なんて、できないのですから」
 それはどうかな?と言ったアルニムの付近から力のない呻き声がする。クロエの意識が戻り、何かを言おうとしているのだ。彼女のハニーブラウンの巻き毛がかすかに揺れる。
 「あたし……まだ、戦える」
 回線映像から見えるクロエの姿から、戦闘の意志を確認するには十分だった。クロエの首筋にある、葉をモチーフにした模様が青白く浮き上がるのが見えたのだ。プラハトはアクティヴィーのアンヘンガーが考えている事に気が付き、小さくため息を吐いた。
 「互いの一撃に賭けるってこと?
  私と一撃勝負なんて、良い度胸してんじゃないの。
  良いわ、やってあげるっ」
 レープハフトは少女が好戦的なセリフとは反対に、一瞬哀しそうな顔をしたのに気が付いた。だがその次の瞬間には不適な微笑みに戻ってしまい、先程の表情を感じさせるものはない。
 「フロイライン、ペネトリーレン起動。
  感覚をプラハトに合わせ、アクティヴィーを捕捉!
  フズィオーン準備――」
 「お……おい、プラハト?」
 聞いた事のない兵器名に戸惑う彼をちらりと見り、簡潔に答えた。
 「フズィオーンは強力すぎるので不用意に使えない兵器その一です。
  対同族用とでも思ってくれて構いません」
 そう言われると、使ってみたくなるのが彼の性格。レープハフトは少しだけ遠慮がちに聞いた。
 「それって……俺も使えるのか?」
 彼の口から出た、思ってもみない言葉にプラハトはぽかんとした。
 「そりゃぁ……まぁ。
 マスターが今より強くなってくださるのでしたら」
 「今のままじゃ無理、って事か」
 彼は素直に頷くと、「俺が強くなるまで頑張れよ」と声をかけた。少女はゆるゆると笑みを作る。が――
 「前方より高エネルギー発生!
  フズィオーン、カウント開始します。
  五……」
 そう言うなり、戦闘時の表情へと引き締める。
 「四……三」
 少女の周りに光が発生する。それらは少女を包み込むようにゆらゆらとしていた。
 「敵にロックされました。
  二……一」
 フロイラインのコックピットに警報の音が鳴り響く。アクティヴィーの方が少し早くエネルギーの集約が終わった。
 「フズィオーン、ファイアッ!」
 ドウンッ!!
 フロイラインとアクティヴィーから放出された高エネルギーがぶつかり合う。片方の光の筋が、もう片方を貫通して――大量の光が宇宙を照らし出した。貫通された方、アクティヴィーの高エネルギーは霧散し、きらきらと輝きを放ちながら消えていった。先程の光によって視界を奪われているレープハフトの耳に、顔を寄せてきていたらしいプラハトの声がする。
 「衝撃波来ます」
 言い終わらない内にガクンとフロイラインの機体が大きく揺れる。衝撃波と共に飛んでくるアクティヴィーの欠片は、いつの間にか張られていたオプファー・バリアによって全て粉砕された。衝撃と光の拡散が終わると、何事もなかったかのように静かな宇宙がやってくる。
 「アクティヴィー、消滅しました。
  オプファー・システム、オフライン。
  エンゲージ・システム、オフライン」
 「終わった……のか」
 残ったのは、アクティヴィーの欠片。フロイラインの他に宇宙船らしき物体は見受けられない。少女とのシステムのリンクが切れると同時に、先程までの宇宙空間のヴィジョンが消えていつも通りのコックピットの姿になった。
 「マスターの権限を完全復帰します。
  フロイライン再起動――」
 淡々とシステムの復帰を指示していくプラハトに何となく違和感を感じたレープハフトは、少女の方へ体を向けた。
 「どうしたんだ――って、プラハトっ!?」
 「フロイライン、破損箇所の修復を開始します。
  大丈夫です……」
 プラハトの顔色は悪く、体のあちこちから血が流れたままになっている。自分の状況を分かっているからなのか、わざわざ一番怪我が大きい左腕を振って苦笑いをする。
 「そんなことより……マスター?
  早く陛下たちの所へ戻らないと」
 「あぁ……。
  フロイライン、発進。目標は移動中のレゲンティン」
 これ以上心配するなと存外に言うプラハトに、彼はとやかく言うのをやめた。
 「了解しました。
  フロイライン、発進します」




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