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第五話、ミッションコンプリート
もう少しでレゲンティンに追いつけそうだと二人が感じ始めた頃。
「マスター」
「ん?」
プラハトが小さく声をかけた。現在、自動航界モードでフロイラインは動いており、マスターであるレープハフトは熱いコーヒーを片手に休みを取っていた。
「フロイラインの修復が完了しました」
そう言う割には、プラハトの体は治っていない。
「は?お前の傷は治ってねーじゃん」
少女は困ったような表情をして答えた。
「私は……ちょっとそこまで回すための余分がないので。
後でちゃんと治しますから」
流れていた血は固まり、傷を塞いでいるようではあったが、その痛々しい姿に見ている方が痛くなりそうだ。
「あの、マスター?」
もう一度プラハトが声をかける。その様子が可愛らしく、見た目の年相応に感じ、くすりと小さく笑った。
「もし、私が倒れても……
フロイラインのシステムが生きているので、航界は可能です。
それで、この依頼が終わったらまっすぐ家に帰るようにして欲しいんですが」
よろしいでしょうか?と聞く姿とその内容のギャップに目眩を覚えつつも、聞き返した。
「どういう事だ?」
「そのですね。
アンヘンガーが倒れた場合、仮想システムによって代わりができます。その、代わりが……あまり賢くなくてですねぇ」
――家に帰ること位しか、命令が聞けないんです――
恥ずかしそうに言うプラハトと、この船に不安を持ったレープハフトの温度差が生まれた。
「あ、この依頼が終わるまでは頑張りますから!」
「当然だろ。でも、ま。無理はするなよ」
少し呆れ気味ではあるが、優しい言葉をかけてくるレープハフトにプラハトは瞳をうるうるとさせた。
「あぁっ……プラハトは、あなたをマスターにする事ができて幸せです!!
レープハフト、ありがとう」
軽く彼にハグをしながら言う少女は嬉しそうだった。そして初めてマスターとではなく、自分の名前を呼んで貰えたレープハフトもご機嫌だった。例え、抱きつかれる事によって自分の服が彼女の血で汚れようとも。
「お前……あ、いや。何でもない」
緩みかけた頬を無理矢理元に戻すと、平然とした態度を取った。
「あ、レゲンティンとインフォースが見えましたっ!
回線を繋ぎましょうか」
「頼む」
そう言うなり、二つの回線が同時に開かれた。
「フロイライン、帰還しました。
ピラートは全て撃墜、クリストフとタイラーは……やはりだめでした」
「お前ら、よくも俺たちの船を敵陣ど真ん中に残してくれたなっ!」
「迎撃、お疲れ様です。お二人も無事だったようで……」
何ともちぐはぐな会話がこうして幾分か続いているうちに、女王の目的地が目の前に広がったのだった。
「みなさん、お疲れ様でした。
報酬は約束通り、口座に振り込みましたのでご確認くださいね」
無事に衛星港に停泊した際に、そんな女王からの通信が届いた。プラハトはやはり今までの無理がたたったのか、ぐったりとして近くのシートに座っていた。
「プラハト、無事に依頼が終わったぞ」
「うん……」
プラハトの返事は小さく、レープハフトは小さく息を吐いた。
「おい、眠るんだったら部屋に戻れよ」
「んー……
疲れた」
全く会話になっていないのに、彼女は気が付いているのだろうか。少女はそのまま目を閉じてしまった。
「プラハト?」
「……フロイライン、仮想アンヘンガーを――」
それっきりプラハトはぴくりともしなくなった。胸の上下だけが彼女がまだ生きているということを証明している。コックピット内で流石に放置するわけにもいかず、部屋まで運ぶ事にした。が、
「何で、お前の部屋ロックかかってんだ……」
レープハフトはプラハトを抱えたまま、盛大な溜息を吐いた。やはりこのまま居るというわけにもいかず、しばらく考えた末に自室へと向かう事にした。
こちらはロックをかけていなかったため、すんなりと開いた。レープハフトはそのまま自分のベッドまで行き、少女を静かに下ろした。念の為に傷口の消毒を施して、毛布をかけることも忘れない。
「おやすみ、プラハト」
そう言うと青年は少女の額に軽く口付けを落とし、部屋を出た。
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