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第四話、フロイライン VS アクティヴィー(二)
「そうか。じゃあこっちから行くぜっ!」
「来た」
次の瞬間、左側に光がはじける。はじけた割には振動が伝わって来なかった。船内に加重はかからない。それは動いていないからなのか、それとも全ての加重がキャンセルされているのか。レープハフトは実感としては前者である様な気がしていた。視覚的には移動した気がしなかったからだ。
「全く効いていないみたいですよ。
どうしたんですか? アクティヴィーは」
そう言いながらプラハトは暗い笑みを漏らした。それは少女が見せたこともない表情で、一瞬彼はどきりとする。しかしその様子を見ているのも束の間、今度こそフロイラインが移動を始めた。ガコンと小さな音が一回鳴った。
「私は、ただのアンヘンガーじゃないのよ。
正にフロイライン。純然たる乙女。
輝けし少女。始まりの乙女、プラハト」
右側へと旋回を始めた。何回かエネルギー砲の光がフロイラインを襲う。フロイラインはそれを食らいながらも極めて平然と移動している。
「稼働率、七四パーセント。損傷なし。
アクティヴィー、何をしているのですか?
そんな攻撃は効きません。
他の武器を出しなさい」
「あぁ、そうするさ。
これが一番弱い兵器なんだ」
今までのは全部小手調べでしかならないと、アルニムの声がそう伝えてくる。確かにアルニムの声を聞く限り、まだまだ余裕そうであった。
「プラハト、本当に大丈夫なんだろうな」
「えぇ。私を誰だと思っているのですか」
レープハフトの問いに軽く答えたプラハトへ向けて彼は言った。
「――お前は、光の乙女だ」
その言葉に満足したのか、少女はぱっと顔を輝かせた。
「この宇宙を照らす、一条の光であれ。
それが、フロイライン。光の乙女。
フロイライン、攻めに切り替えます」
アクティヴィーとフロイラインは現在、向き合うように位置している。アルニムは先程の言葉とは裏腹に、少し様子を見る事にしたようだ。
「プラハト、何をするつもりだ?」
レープハフトが聞くが少女は答えない。船の奥でガコン、とまた何かの音が響いた。
「通常兵器、使用準備完了。
リヴォルヴァー、射程内距離……弾薬充填完了。通常兵器は全てセミオートに。
攻撃目標の捕捉は各モニター、プラハトとのエンゲージで行うこと」
少女はテキパキと設定していく。
「さぁ、本気でかかってきなさい」
レープハフトは驚いていた。微妙なタイミングで攻撃を避けていくフロイラインの素晴らしい機動性もさることながら、それに苦もなく対応しているプラハトの処理能力も素晴らしい。
プラハトにこんな事ができるとは知らなかった。
「……バルカン砲準備、リヴォルヴァーの残存弾薬、三分の一を切りました。
ガトリングに切り替えます」
フロイラインはアクティヴィーの後方へうまく回り込んだ。それを振り切ろうとアクティヴィーは速度を上げる。
「逃がしませんよ……っ」
少女の小さな呟きに呼応するかのように、フロイラインも速度を上げる。その間も、二つの船艦は攻防を繰り返している。
一回、フロイラインが大きく揺れた。
「フリューゲル左翼に被弾!
また左翼か……」
そう言う少女の左腕からは紅いシミが広がっていく。レープハフトはまずいとは思ったが、プラハトの表情を見ると声をかけるのをやめた。
自分は余裕だと、少女の瞳が言っていた。フロイラインは受けた傷をものともせずに動いている。
「被害状況調査中。出力三十五パーセントダウン……
出力を回復します。
――出力百パーセントに回復」
回復速度が速い。アンヘンガーと対になっている船艦は、搭乗者の生命力、精神力、体力などを吸い取って生きている。今のフロイラインではマスターの代わりにアンヘンガーがその役目を負っている。人間よりも強固な存在であるアンヘンガーが力を供給するという事が、これほどまでに自分との差をみせるのか。実際にその差を目の当たりにしたレープハフトにとって、かなりの衝撃であった。
だが、その快復力は自分にまでは回せていなかった。少女の腕から流れるものはまだ止まらない。命の雫がまた、一滴足下へと落ちた。
残弾数が少なくなったのだろうか、アクティヴィーからの通常兵器の攻撃が弱くなり始めた。その代わりに特殊兵器による攻撃が始まった。未だに特殊攻撃をしようとせず、通常回避と通常攻撃を行っているフロイラインの機体には無数の傷ができあがっていく。
「……っ」
笑みを絶やさずにアクティヴィーに対応していくプラハトの体にもフロイライン同様に新しい傷が増えていく。
「私も、そろそろ使いますかね!」
プラハトがそう意気込むと、彼女の髪に隠されていた額にある、翼を連想させる模様が青白く輝いた。風もないのに少女の長いシルバーグレイの髪がなびく。
「オプファー・システム、オンライン!
プラハトに従いなさい」
凛とした声がコックピット内に響いた。レープハフトには少女のいる場所が輝いて見える。
「逃げ切れるとは思っていないんでしょう?
アルニムさん」
全身に傷を負っているものの、最初の頃と変わらぬ堂々とした態度に不適な微笑み。彼女から流れゆく紅い雫が妙に美しさをアピールしていた。
いつの間にそうしたのか、通信が映像付きになっていた。普段通信映像が映し出される空間に、アルニムの姿が映った。
「あぁ、逃げ切れるとはこれっぽっちも思っちゃいねぇ……」
アルニムは指で、その「これっぽっち」を表現してにやりと笑う。そしてその腕には。
「……」
ぐったりとしたクロエが抱えられていた。
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