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第六話、帰路
「フロイライン、聞こえているな?」
彼の声に反応して擬似映像が出現した。プラハトに似た、だがそれよりも大分大人らしい姿をしている。恐らく、プラハトの理想なのだろう。バランスの取れた体つきだ。こんな姿のプラハトに迫られたらちょっとくるだろう。これは。
「はい、マスター」
そんな不埒な事を考えていたレープハフトだが、本物のプラハトとは異なって無表情で無機的な対応に少女が言っていた「あまり賢くない」という言葉が思い浮かんだ。
「これから家に帰ろうと思うんだが……
オートコントロールでの航界は可能か?」
「はい、可能です」
やはり無表情で答えるプラハトもどきはマニュアル的な擬似映像であった。所詮はもどき、という所だろう。
「じゃあ、今から家に帰るぞ。
フロイラインを起動してくれ」
早速プラハトもどきとのコミュニケーションを取ろうとすることを考えるのをやめ、事務的に命令をした。
「はい。
システムオンライン、システムオールグリーン。
管制塔へ、こちらフロイラインです」
「こちら管制塔」
管制塔の人間がサブディスプレーに映し出される。流石に少女がいつの間にか大人になったのは気が付かれたようだ。少し落ち着きがない。
「民間船フロイライン、出航したいので許可をいただけますか?」
「もちろんです。停泊料はすでに振り込まれているのでいつでも許可できます」
気になりつつもきちんと対応する所を見ると、流石は――と言うべきか。
「ありがとうございます。
民間船フロイライン、発進します」
「こちら管制塔、S‐6へ健闘を祈る」
事務的に、何の問題もなく応答が終わり、無事にフロイラインは宇宙空間へと飛び出した。
「マスター」
ふと、プラハトもどきが青年に話しかけてきた。
「ん?」
「高位空間を利用しますか?」
早く家に着いた方が良いに決まっている。そう純粋に思ったレープハフトは素直に答えた。
「頼む」
「フロイライン、高位空間座標ならびに高位空間脱出時の座標を計算――
高位空間へ移動します」
プラハトもどきの言葉が終わると、くん。と小さいプレッシャーがかかり、高位空間へと移動した。
レープハフトは懐かしい夢を見ていた。プラハトと出会った時のものだ。
――……青年は偶然、仕事帰りに不思議な惑星の破片を見た。近付いてみると思ったよりも大きく、しかも旧時代の遺跡のようである。仕事帰りで疲れてはいたが、こんな興味深い事はそうそうあるものではない。
少しだけ様子を見に行って、危険そうならば引き返せば良い。ここの座標をインプットして、装備を調えて再挑戦する事もできる。そんな風に思っていた。
「っとに古い時代の物だな……」
宇宙空間でも自由に動けるスタイルの防護服を着、レープハフトは一人でぶつぶつ呟いた。現在では使われていない機械やらがたくさん揃っていた。ここは、研究に使っていた建物か何かなのだろう。この時代よりももっと古い物になると、原始的なトラップがあって危険だが、ここはそうではないらしい。もしかしたらトラップがあるのかもしれないが、少なくとも原始的な物ではない。そうであれば、今頃竹の槍か何かが腹にでも突き刺さっているだろう。
探索を続けていく内に、緑色の光が見えた。まだ電力があるようだ。もしかしたら電力を自家生産する装置でもあるのかもしれない。何世紀も動き続けられる機械があるのならば。
「これは、ハッチ?」
光っていたのは、ハッチを開閉するボタンの部分だった。試しに押してみる。プシュッという小さな音がした。これでハッチが開けるようになった。ハッチを開いた先は、ただの小部屋だ。昔使われていたと見られる防護服が壁に掛かっている。どうやらこの部屋から先は、防護服なしで動ける環境が整った何かの設備があるらしい。
彼は迷わずその部屋の中に入ると、壁にあるスイッチを押した。ランプの色が緑になった。正常に作動しているとすれば、これで防護服を脱いでも大丈夫なはずだ。だが、その保証はない。脱いでみた、酸素はなかったでは洒落にならない。
「さぁて、何があるのかね」
レープハフトは念の為に防護服を着たまま、反対側のハッチに手を掛けた。
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