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第七話、邂逅(一)

 ハッチの先は、未知なる世界だった。何世紀も昔から動き続けているとは思えない設備だったのだ。電力の供給はきちんとしている。レープハフトは防護服を脱いだ。安全だと判断したからだ。
 「何なんだ、これ」
 彼の呟きに反応したのか、疑似映像が現れた。少年の姿をしている。相手を安心させる為だろう。手が凝っている。
 「ここは、知識の泉。
  初めまして、ボクはここのアンヘンガー」
 「は? だってお前は映像……」
 「ごめんね、正体の分からない相手に生身で出て行くバカはいないでしょ?
  キミが信頼にたる相手であるとボクが判断したら、ちゃんと会いに行くよ」
 ずいぶんと生意気な態度である。だが、仕方ない。この少年の言う事はもっともだ。レープハフトだって、自分がアンヘンガーでこんなすごい施設の持ち主だったら同じ事をするだろう。
 「俺はレープハフトだ。
  ヴェルクをしている。アンヘンガーって宇宙船と対になってるんじゃないのか?」
 自分が危険人物と判断されなければ安全だと悟ったレープハフトは、自己紹介を交えながら質問を続ける。アンヘンガーだと言った少年は残念そうな表情をして首を振った。見た目は幼い疑似映像だが本人は長生きしているようだ。
 「機械と同調できるなら、アンヘンガーなんだよ。
  その主な対象が宇宙船なだけで。
  他に聞きたい事あれば、少しだけ相手してあげる」
 生意気だと、思っていたがこれは生意気ではなく尊大だと言うべきだと彼は思った。それだけの知識や経験が詰まっているのだ。見た目で判断するのは良くない。
 「では。ここは知識の泉だと言ったが、どういう意味だ」
 彼の目には、すごい機械がいっぱいあって旧遺跡の文明レベルが今よりも優れていた時代があったように映っている。その実、これが何なのか分かっていない。少年は少し歩くと振り向いた。
 「アンヘンガー達が疲れた時に休む場所だよ。
  といっても、今は特別な子しかいないけど……」
 「どういう事だ?」
 「減ったんだよ。時代の流れに飲まれて……
  所詮、遺物なんだ。ボク達は」
 そう言う彼は寂しそうだった。孤独とずっと戦いながら、生きてきたのだろうとレープハフトは思った。それが真実かは別として。
 「長い時を生きていると、死にたくなってくるものさ。
  疲れるんだよね。ボクみたいな特別な子とかは死ねないけど」
 青年にはこの少年が何を言っているのか、いまいち分かっていなかった。暫くしてから、この意味を理解させられるのだが、この時は全く分かっていなかった。アンヘンガーという存在の事も。
 「さて、こんな所で良い?
  レープハフト、良い旅を」
 そう言うと彼の返事も待たずに、一方的に疑似映像を終わらせてしまった。残されたレープハフトは、きっと聞こえているだろうと礼を言った。



 彼とのコンタクトが終了してから、うろうろと辺りを彷徨っていたレープハフトであったがこれといった収穫はなかった。何か面白そうな物があれば良いと思っていたが、用途不明すぎる物しかなかった。怪しすぎて誰も買い取ってはくれまい。
 ちょっと拝借してしまおうと思っていた彼は諦めるしかなかった。そんな時、気になる事を思いだした。

 ――今は、特別な子しかいない――

 これはどういう意味だったのだろう。あのアンヘンガーは自分が特別な子だと言っていた。他にああいった存在がこの遺跡の中にいると言う事だろうか。まさか、自分もここで休んでいるアンヘンガーの一人という訳ではあるまい。この遺跡のアンヘンガーだと言っていたのだから。
 「ひょっとして、もう一人くらい同じ様な子がいるって事か……?」
 どんな奴なのだろう。少なくとも後一人、この遺跡のどこかにアンヘンガーがいるらしい。探してみる価値はある、と独りごちて彼は奥へと進んでいった。
 旧遺跡の構造は、現在の軍事用母船と同じ様な構造であるらしい。そう気が付いてからは早かった。宇宙船の格納庫となっていると思われる場所へ続く扉を見つけ出した。どきどきと高鳴る鼓動は、扉の向こうへ行くまでは収まりそうもなかった。
 格納庫の状態を確認してから、扉を開いた。シュッという軽い音を立てて開く。その先には、卵のような物が転がっていた。正確に言うとすれば、遠い昔の人間が宇宙船をUFOと言って騒いでいた頃の円盤形のそれを、変形して卵形にしたような物である。
 「これ、宇宙船なのか……?」
 とてもじゃないが、そうは見えない。こんな形の物が動くわけがない、そう思っていた。
 ハッチと思われる窪みを見つけ、レープハフトはそこに手を掛けた。




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