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第二話、二人でする初めての仕事(二)

 「システムオンライン、システムオールグリーン。
  民間船フロイライン、発進します」
 「こちら管制塔、P─1へ健闘を祈る」
 元レープハフトの愛機、現プラハトの一部となったブーストから粒子が舞う。ふわりと船体が浮かび上がると誘導装置が作動し、誘導灯による通路ができた。発進用のランプがブルーになると、一気にフロイラインは加速した。
 「マスター、レゲンティンへ通信回線を開きます」
 「頼む」
 プラハトは瞳を閉じ、手のひらを器用に動かした。メインディスプレーの左側にあるサブディスプレーに変化が現れた。
 「こちらフロイライン、レゲンティンへ。航界の状況はどうですか?」
 「こちらレゲンティン、今の所は快調です。
  何事も起こらずこの調子で行ってくれれば良いのですが」
 サブディスプレーには朗らかに笑う女性の姿が映し出されている。女王だ。背後では直属の機関士や乗船員らが困ったようにうろうろとしていた。制止したいのにできない彼らの様子がフロイラインに居る二人の笑いを誘う。
 「陛下、こっちは貴船がばっちり見える位置にいる。確かに俺たちの艦隊以外はまだ引っ掛かってこない。
 暫くは安心出来ると誓っても良い。それより後ろの人達が困ってるぜ」
 「あらまぁ、このくらいで止めてあげないといけませんね。
  二人とも、失礼しますよ」
 女王は楽しそうに背後の人達を見やり、退出した。呆気にとられている船員をよそに、艦長が画面に現れた。
 「失礼しました。他の護衛艦の様子はどうですか?」
 艦長の様子を見て、レープハフトの代わりにプラハトが答え始めた。敬語が上手く使えないレープハフトよりもプラハトの方が、印象が良くなると少女が判断したからだろう。
 「クリストフの船、タイラーはレゲンティンの左舷に居ます。右舷にはアクティヴィーが。レゲンティンの上部に配置されているのがインフォースです。我々フロイラインは後方で四機が視界に入るように居ます。
  現時点での不安定な動きはありません」
 「そうですか、ありがとうございます。
  今後も定期連絡をお願いします」
 艦長とは事務的な会話で終了となり、レープハフトは最後まで彼とは話さなかった。プラハトはレゲンティンから通信を解除するとふぅっと息を吐いた。少女なりに緊張はしていたようだ。
 「マスター、クリストフさんのタイラーへ連絡を取ります?」
 「あ、あぁ!
  頼む」
 今日は一日目、実に平和な一日となった。



 「お帰りなさい、マスター」
 いつもと変わらずプラハトは元気に挨拶をした。それとはうってかわり仮眠を取っていたレープハフトの方はというと――
 「あーくっそぅ。
  夢見心地がすげー悪かった」
 「大丈夫ですか?」
 幾分げっそりとした表情にプラハトは心配そうな表情を作る。しかしレープハフトはそんなプラハトに目を向ける事はなく、コックピット内の操縦席へと座った。
 「嫌な予感がする。
  プラハト」
 「はい?」
 「いつもより広範囲をサーチしてくれ」
 プラハトは言われるままにサーチを開始した。何の反応もない。静かだった。
 「異常ありませんでした」
 「もっと範囲を広げられないか?」
 レープハフトの言葉にプラハトはひぃっと声を上げた。
 「嫌です!
  できますけど、感度も保てって事なら情報量が半端なくて私が壊れちゃいます!」
 必死な抗議にレープハフトも諦めざろえなかった。小さくため息を吐いて、両手を頭の後ろで組んだ。
 「分かった、感度と範囲はそのままで良い。
  お前に倒れられちゃ困るしな」
 そのまま予定通りの針路を進んで十分程経った頃、プラハトに変化が現れた。現在、フロイラインのサーチ範囲は半径一万距離だ。普通のバトルシップの1.5倍以上である。それはプラハトが通常生活をしていても混乱せず、無意識に近い状態で実施できる最大サーチ範囲であった。
 「マスター、ピラート出現。六時の方向に三機、距離九千。
 フロイラインのサーチに見事、掛かったようだ。プラハトの表情はまだ硬くない。
 「フロイラインとレゲンティンの距離は?」
 「百二十です。ピラート迎撃に隊を離れますか?」
 レープハフトとプラハトは冷静だった。こちらから攻撃できない警察艦隊に比べたら、相手に攻撃して良いだけマシだと言える。それにスピードも警察艦隊より遅い分余裕がある。
 「いや、もっと引き付けてからだ。今離れたら気付かれる。
 他の艦は気付いているか?」
 ターゲットがピラートに気が付いているのを悟られるのは避けたい。偶に向こうが遠距離から適当にズカズカ撃ってくる事があるからだ。プラハトは心強く頷いて答えた。
 「誰も気が付いていないようです。ネットワークに乱れはありません。
  ピラート三機、距離八千になりました」
 「よし。クリストフにだけ連絡をしておこう。回線を開いてくれ」
 了解、マスター。という声とほぼ同時にサブディスプレーに映像が映し出された。プラハトの集中力と反応力は上々だ。
 「どうした、レープハフト? とプラハト」
 クリストフは存外ご機嫌なようだ。しかし今は団欒している場合ではなかった。敵がまだ遠いとはいえ現れている。
 「クリストフ、ピラートが三機接近中だ」
 「距離は六千五百です」
 プラハトが微妙なタイミングで口を挟む。レープハフトは気にせず続けた。クリストフはあえて質問をしたり焦ったりしなかった。
 「もうすぐそちらのサーチにも引っ掛かると思うぞ。
  まだ猶予があるが、一応な」
 さり気なくレープハフトが気を利かせて連絡をしてくれたと気付く。レゲンティンに連絡をする事よりも優先してくれたのが分かる言い方だった。それは逆にレゲンティンに連絡をすれば、艦隊が混乱する可能性がある事を示唆してもいた。
 「フロイラインは我々の船よりも、感度と範囲が広いな」
 クリストフは笑ったようだった。口がガッバリと開く。鋭い牙がキラリと光った。
 「伊達に年食ってねぇ、ってか」
 レープハフトも笑う。二人とは反対の反応をしたのはプラハトだった。
 「レディに対して失礼ですよ、二人とも!
 ピラート距離五千三百、ステルスを展開中。
 あっ、ピラート増えました!! 数、十九です」
 怒りながらも役割を忘れない所も、長年生きて来た証に取れるが、それ所ではなかったようだ。十九という数字にレープハフトが小さく呻いた。おや、とクリストフはあまり目立たない眉を片方だけ上げた。
 「位置と接触予想は?」
 「三機は六時、五百十四秒後に接触予定。
  十九機は十時、千六秒後です」
 少し分が悪いかもしれない。だが、まだ時間に余裕はある。先手を打てば多少は何とかなるだろう。




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