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第三話、試される二人のコンビネーション(一)

 「クリストフ、お前はレゲンティン護衛に専念してくれ!アクティヴィーを補佐に回す。
  プラハト、エンゲージ・システム起動!」
 「分かった、無理はするなよフロイライン」
 クリストフは二人の冷静な様子に、不安要素を見出だす事なく回線を切った。若いながらも、レープハフトはしっかりと戦略を組み立てているようだった。それも経験のなせる技、か。
 「エンゲージ・システムオンライン、迎撃スタンバイ完了しました」
 プラハトの透明感のある声がコックピット内に響いた。レープハフトは前方にあるレゲンティンを見つめている。
 「アクティヴィーに回線を回せ」
 プラハトが返事をする間もなく、サブディスプレーに映像が写った。キャプテンのアルニムだ。
 「フロイラインより連絡。
  ピラートが接近、タイラーと共に迎撃ではなくレゲンティンの守護を頼む。
  迎撃はフロイラインとインフォースで行う」
 フロイラインからの一方的な通達に、アクティヴィーのキャプテンは答えた。
 「守れだって!? 何をすれば良いんだかわかんねーんだけど」
 フロイラインの二人は、確実に人選ミスだったなと心の中で思った。
 「要するにですね、レゲンティンに攻撃が当たらないようにするって事です。
  攻撃を相殺させたり、迎撃が間に合わなくて近付いてきた船を落としたり」
 プラハトがそこまで言うと、「よっしゃ任せろ!」という威勢の良い声が聞こえてきた。二人はアルニムに気が付かれないように小さくため息を吐いたのだった。
 「よし、次はインフォースだ」
 「繋ぎました」
 サイドディスプレイにインフォースのキャプテン、ウェイスタンが映った。そろそろ普通のバトルシップならばサーチできているはずだ。が。
 「どうした、フロイライン。何かハプニングでも?」
 まだピラートにインフォースは気が付いていない様だった。サーチを掛けていなかったのだろうか?
 「ピラートが三機接近中、後続で二十機接近中だ。
  今回は護衛であって殲滅が目的ではない。撤退するピラートは放っておけ。
  フロイラインと共に艦隊を離れ、迎撃に努めろ」
 「任せとけ、インフォースは無敵だ」
 快い回答を得、二人はほっとした。何せ、顔を合わせたのはこれで二回目だ。どんな人間かもまだよく分かっていない。
 「合図を送るまで、そのままの状態で待機。
  待機中に戦闘準備を終わらせておけ」
 「オーケー」
 最後に連絡をするのはレゲンティンだ。時間が迫ってきている。
 「マスター、二百三秒後にピラート三機と接触します」
 プラハトが正確な時間を刻む。レープハフトは覚悟を決めた。
 「分かった。レゲンティンへ繋いでくれ」
 サブディスプレーには、艦長ではなく女王が映っていた。
 「ピラートですか?」
 女王の態度は普通だった。二人は少しだが、呆気にとられた。
 「陛下、合計二十二機のピラートが接近中。
 インフォースとフロイラインが迎撃に、タイラーとアクティヴィーがレゲンティンの援護に就く。
 レゲンティンはそのまま針路を進んでくれ」
 「途中で止まらないようにしてくださいね!」
 レープハフトの言葉にプラハトが付け足した。女王はにこやかに頷く。状況が分かっていないのだろうか?それとも取るに足りない事だとでも思っているのだろうか。
 「分かりました。皆さんの健闘を祈ります」
 静かにそう言い、女王は自室へと戻っていきながら船員に指示を出した。艦長が来る前に、プラハトは回線を閉じる。
 「マスター、最初の三機に後七十三秒で接触します。
  どうしますか?」
 プラハトがにこやかに聞いた。瞳には闘志を見る事ができる。
 「そりゃ、勿論。フリューゲル起動、だろ。
  フロイライン、ピラート迎撃に向かう」
 「了解、マスター」
 フロイラインの機体に美しい一対の翼が出現した。ブーストからの粒子の色とは違った、青白い光で輝いている。翼が羽ばたこうと小さく動いた。
 「インフォースへ、ピラート迎撃を開始する!」
 音声のみの通信でレープハフトはそう告げると、フロイラインはその青白い翼を羽ばたかせて一気に加速した。



 「おし、二機撃墜!」
 嬉しそうなウェイスタンの声が音声通信から聞こえてきた。
 「オンラインにしておくと、意外に煩いですね」
 プラハトの呟きにレープハフトは小さく肩をすぼめる。
 「仕方ねーだろ……っと」
 ふいに操縦コマンドを変更する。ピラートのバーサから発射された弾が、左舷側すれすれに通過していった。
 「プラハト、こっちもバーサだ。
  直ぐには撃たない。ぎりぎりまで引きつけるぞ」
 「了解!」
 砲撃が外れたのを機に、ピラート一機がフロイラインへ接近してきた。フロイラインもピラートへと進行している。
 「距離二百、ブースト逆噴射します」
 「プラハト」
 レープハフトが声を掛けた。プラハトの右手が前方へと伸びる。
 「ベルタ・ファイア!」
 プラハトの声と同時に右舷にあるバーサから、圧縮・氷結されたシュペティール・オイルが発射された。着弾と同時にオイルが溶け、爆発する。どこでもいいから着弾さえすればほぼ確実に敵機を落とせるという優れものだ。このオイルは極めて入手が難しいとされている。あまり無駄はできない。しかしこの至近距離ならばほぼ百パーセント当てる事ができる。
 「ピラート一機、沈黙。
  次へ移ります。ピラート逃走機はなし、現存は十五」
 プラハトが淡々と述べていく。レープハフトは操縦パネルにかじりつくかのようにしていた。
 「うわっ! 全回避、全回避!
  プラハト弾ま――いや、バリア展開!!」




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