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第三話、試される二人のコンビネーション(二)

 実弾型レールガンがピラート数機から一気に発射された。勿論フロイラインに。フロイラインは現在、三百メートル級の船艦である。二、三発この実弾型レールガンが当たれば沈黙することになる。
 「電磁バリア第一次展開完了」
 プラハトの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、バリアへと数発が着弾した。実弾を電磁波が破壊する際の凄まじい音や振動が微かにコックピットまで響いてくる。
 「セーフ。ナイスタイミングだプラハト」
 「私がいれば天下無敵、ですから」
 インフォースと違ってね。と小さく少女は付け足した。インフォースの方は聞こえていなかったのか当てただの、当てられただのとぎゃぁぎゃぁと叫んでいる。
 「電磁バリア解除、フリューゲルを第二展開にする」
 「あ、マスター」
 プラハトがぴくりと不自然に動いた。少女の眉間に皺が寄る。
 「まずい事になりました。四機が離脱、レゲンティンへと向かっています」
 少女の言葉にレープハフトが瞬時に反応する。
 「プラハト、この場はインフォースに任せる。
  四機を追うぞ!」
 今度はその指示に従いながらもプラハトが叫んだ。
 「インフォースには荷が重すぎます!」
 「クライアント優先だ」
 レープハフトは冷たく言い放った。プラハトはぎゅっと目をつむる。そして再び目を開いた瞬間には、今までと同じような冷静さを取り戻していた。
 「マスター、元気有り余ってます?」
 「は?」
 レープハフトの疑問をよそに、プラハトは言った。
 「フリューゲル、第三展開。プラズマ付加。
  速度三十パーセント増加!」
 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 突然の螺旋状回転とそれによる加速に、レープハフトが悲鳴を上げた。普段は重力付加がないが、付いているように感じる。悲鳴を上げている彼に対して、少女は何事もないかのように平然としていた。一対の翼がオーロラのような軌跡を残しながら羽を広げている。
 「フリューゲル、第二展開に戻します。プラズマ解除。
  マスター、追いつきましたよ」
 「う……死ぬかと思った」
 レープハフトの顔色は悪かった。青白いを越えて土気色になっていた。
 「メタシュターゼ……起動。一機でも減らさねーと」
 「了解、起動します」
 メタシュターゼとは、真空相転移の論理を適用させたものである。真空状態である宇宙空間において、偽の真空状態となるように相転移するとエネルギー密度による強大な力が発生する。このダークエネルギーを利用すれば、一瞬のうちに着弾した部分を消滅させる事ができる。貫通するほどの威力は望めないが、確実に敵を殲滅出来る。フロイライン自慢の武器である。
 「確実に潰していけよ」
 「任せて下さい」
 気分が悪くてヘロヘロしているマスターの代わりに、プラハトが操縦する事になったようだ。左右の腕を一見何もない空間へと伸ばし、器用に動かしている。少女には何かパネルのような物が見えるのだろうか。瞳も忙しなく動いていた。
 「ロック。メタシュターゼ、ファイア!」
 船首の辺りから、一本の光の筋が伸びた。光の筋はそのまま真っ直ぐと四機の内一番右にいた機体へと進んでいく。その光が船尾へ到達した途端に光が収束した。その光が瞬間的に闇を発生させ、その部分から小規模な衝撃波が広がっていった。
 「一機、沈黙。残りターゲットは三機です」
 「タイラーよりフロイラインへ。援護感謝する」
 クリストフから通信が入ってきた。サブディスプレーにはタイガーウルフが映し出されている。元気そうだ。
 「この機体は機動性を重視したから、あまり火力が強くないんだ。来てくれて嬉しいよ」
 相殺までいけない時があったらしく、船体にはちらほらと傷がついている。しかし、まだ今の所は決定的な痛手は受けていないようだった。
 「まだ三機いる。後ろからも来てるし、安心はできないっと」
 「リヴォルヴァーとガトリング、どちらにします?」
 器用に敵の攻撃を避けながら二人は会話をしていた。
 「今回はリヴォルヴァーだ。弾数は要らん」
 「準備出来ました」
 プラハトがそう言うと、レープハフトの左側にキーボードが出現した。彼は左手でカタカタと打ち込んでいく。軽快な音を立てて、ピラート船とすれ違いざまに次々と弾を発射していく。
 「威力がちっと低いか?」
 「前に回り込みましょう」
 フロイラインが円を描くようにしてレゲンティンの周りを一周する。フロイラインを追ってきたピラートの数機が後続して攻撃を仕掛けてきていた。残りはインフォースを袋だたきにするつもりらしい。
 「安定して狙えねぇな」
 レープハフトは言ってみただけだった。プラハトは人差し指を顎の辺りへ当てた。
 「体当たりしちゃいます?」
 「は?」
 プラハトも言ってみただけだった。しかしレープハフトには冗談には聞こえていない。
 「体当たりしても大丈夫なバリアってあるか?」
 「はぃ?
  まぁ……一応ありますけど、マスターが疲れる事になりますよ」
 乗り気でない少女に向けて、レープハフトは言い放つ。
 「そのバリアを展開したら、直ぐにブーストを逆噴射だ。
  慣性に逆らえない後ろのピラートがぶつかってくる。
  一、二機は潰せるだろ」
 無茶苦茶だけど、了解しました。とプラハトが不安そうに答えた。レープハフトはその理由が分からなかったが、少女に釣られて不安になってきた。しかし自分が言った事だ。引き返せない。
 「オプファー・バリア展開、ブースト逆噴射。
  衝撃来ます!」
 大きな衝撃と共に、レープハフトは急激に力が抜けるのを感じた。これがオプファー・システムの欠点だという事にはまだ気づいていない。しかし彼の作戦は功を奏したのだ。
 「二機、フロイラインとの衝突によって沈黙。
  一機、前の二機に追突して戦闘不能」
 「合計で後何機だ?」
 脱力感に戸惑いながら青年は聞く。少女は青年の代わりに操縦を行いながら答えた。
 「後は九機です」




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