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第三話、試される二人のコンビネーション(三)

 「撤退、してくれねぇかなー」
 「ボスの船艦が見あたりません。
  サーチを再開したい所なのですが、この状況ではそこまで集中できませんし」
 レープハフトの望みは叶いそうになかった。プラハトも残念そうな上、今まで気が付かなかった不安要素に少し興奮気味だ。フロイラインは急速旋回を始めた。
 「ペネトリーレン起動」
 彼の言葉に従っていたプラハトが今回では初めての拒否をした。
 「使用に有利な状況とは思えません」
 「いんや、使う」
 彼よりもずっと年上である少女の忠告などに聞く耳を持たないようであった。その間も敵はあちこちから攻めてくる。そもそもターゲットはフロイラインではない。レゲンティンなのである。
 「命令だ、ペネトリーレンを起動しろ」
 「……了解、マスター」
 命令には逆らえないのを承知でレープハフトが言った。不服そうではあったが、プラハトは従う。彼の右側にペネトリーレン専用のコマンダーが出現した。
 「準備出来ました。いつでもオーケーです」
 少女の言葉に軽く頷いて、次の指示を与える。
 「フリューゲルで奴らの気を引いてくれ」
 「了解しました。フリューゲルを一瞬だけ解放します」
 フロイラインへ敵の気が逸れる時、一瞬だけブランクが発生する。それを利用しようというのだ。
 「解放まで、3、2、1――解放」
 瞬間的にフリューゲルが大きく広がって強く輝く。宇宙空間でありながら、惑星の昼間のような明るさとなった。数秒後にはもとの宇宙空間へと戻るだろう。だが、突然の光に、辺りにいる宇宙船の動きが鈍くなった。
 「ペネトリーレン、発射します」
 大規模なプラズマ粒子砲が発射された。近くにいた二機は消滅、直線上にいた三機は沈黙した。
 「ピラート、残存勢力四」
 プラハトの淡々とした声だけが響いている。ピラートの攻撃が緩んでいる。上手く動揺してくれたようだ。少女は操縦席に座っているレープハフトの肩へ手を置いた。彼は気絶していた。
 「起きて下さい。
  このままでは減らしたとは言え、死にます」
 少女が手に力を入れた途端、レープハフトが弾かれるようにして目覚めた。
 「いってぇ!」
 相当痛かったのか、右手で左肩を押さえてぐおぐおと唸っている。その様子に、プラハトが小さく微笑んだ。元気がまだ残っている事に安心しているらしい。
 「マスター、大丈夫ですか?」
 「あぁ……俺は、大丈――」
 大丈夫、と言おうとしていたレープハフトとにこやかにしていたプラハトが、左端に見えた映像に固まる。今まで目立つような事をしていなかったアクティヴィーが行動を起こしたのだ。それも最悪な方向に。
 「プラハト、クリストフは」
 「恐らく……彼はもう」
 プラハトは力なく首を横に振った。アクティヴィーは行動を起こした。しかし、それは味方――それも、クリストフが乗っている機動船艦タイラー――への攻撃、というものであった。
 「アクティヴィーが、ボス。か?」
 「どうやらその様ですね。抜かりました」
 少女が自嘲気味に笑う。二人の声には怒りが込められていた。
 アクティヴィーの攻撃によってタイラーが沈黙すると、ピラートが様子を見るかのように攻撃を止めた。
 「マスター、ピラートの動きが止まりました。
  アクティヴィーによる何らかの指示が出たのでしょう」
 プラハトが静かに言った。レープハフトはプラハトへ周りの回線状況を聞いた。
 「レゲンティンは現在通常活動中です。タイラーは……依然として沈黙したままです。
 インフォースは何とか持ちこたえたようで、こちらに文句を言っています。聞きます?」
 「いや、インフォースには勝手に言わせておけ。
  俺はアクティヴィーと話がしたい」
 首を横に振り、彼は突然行動を起こしたアクティヴィーとの会話を望んだ。
 「ま、そうでしょうね……。
  強制回線繋ぎます」
 プラハトが言い終わるのとほぼ同時に回線が開かれる。強制的に開かれた側であるアクティヴィーは意外にも平然としていた。そしてフロイラインのサブディスプレーには戦闘が始まる前に「守れだって!?何をすれば良いんだかわかんねーんだけど」と言ったアルニムの姿が映し出される。
 「来ると思ったぜ。お前の船、あの(・・)フロイラインなんだってな?」
 プラハトの表情が一瞬硬くなる。レープハフトがそれに気付いた様子はないが、アルニムの言葉に不安を覚えたらしく、少女の方へ顔をちらりと向けた。
 アルニムはあの時と変わらぬ調子であったが、一つだけ違う点があった。見知らぬ女性が側に立っているのだ。無表情で冷たい雰囲気を持つ、美しい女性であった。
 クロエ……久しぶり。あなたの相棒はどうしたの?」
 プラハトが悲しそうに、静かに女性へと話しかける。クロエと呼ばれた女性は虚ろな瞳をプラハトへ向けた。
 「あたしのミュティレネは……死んじゃったの。
  フロイライン、元気?あたしはアクティヴィーと一緒になったよ」
 だから、今の相棒はアクティヴィーなの。と言う彼女の声には何の感情も浮かんではいなかった。その様子にプラハトが声を荒げた。
 「アルニムっ、彼女に……クロエに何をしたんですか!?」
 「偶然なんだがな」
 アルニムはプラハトの想像通りの反応に、にやりとした。
 「俺の見つけたアクティヴィーは、死に損ないだった。
  だが、性能は良くてな……そのままアクティヴィーのアンヘンガーを失うわけにはいかなかった。
  そんな時にやってきたんだよ。こいつが」
 アルニムは一旦言葉を切り、クロエを左腕で引き寄せた。アルニムに軽く抱かれる形となったクロエは少し安心したような表情を見せた。
 「クロエの船、ミュティレネは弱かった。俺の求めているレベルに達していなかったって意味でだが。
 だから……――
 ダフニス。そう、アクティヴィーのアンヘンガーをクロエに喰わせたんだ」
 ダフニスの名を聞いた瞬間、クロエは静かにまぶたを閉じた。その頬にはひとしずくの涙。アルニムは満足そうに、微笑んでいる。
 「クロエにとって、ダフニスは恋人だったらしいな。
 あまりにも不安定になっちまったんで、色々してやったんだが……」
 「……なんて、ことを」
 プラハトは眉を顰めて呟いた。




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