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第四話、フロイライン VS アクティヴィー(一)

 数十年に渡って旧遺跡で眠っていた彼女はともかく、レープハフトはクロエの状態に心当たりがあった。
 「今のお前は、そのアンヘンガーに薬を買ってやる為だけに、こんなピラートの真似なんぞをしているのか。
  もう、薬なんかやらなくても……そいつは壊れちまってる。
  薬をやるだけ無駄だぞ」
 闇の商人達の間で、流行っている薬がある。その薬を用いれば、どんなに精神の強い存在でも――例え、アンヘンガーでもたちまち言う事を聞いてしまうという。アンヘンガーに実際使ってみないことにはその完成度は分からないが、高濃度の精神汚染薬であることに変わりない。
 おそらくそれをクロエに使用したのだろう。もはやクロエは船と同調できるだけの人形になっていた。
 「いーのさ。クロエは、ダフニスと永遠に結ばれたんだ。
  俺たちマスターが……船に取り込まれるように。な」
 「私は、そんな事……しないもの」
 プラハトが反論した。アルニムは面白そうに眺めている。
 「私は、そんな事をするために存在しているわけじゃありません。毎回でもないし、望んでするわけがないでしょう。
  結果的には、とかは言わないで下さいよ?
  前のマスターは、あの女王陛下なんですから」
 アルニムが、ほぅ。と方眉を上げた。レープハフトはやはりな、と言った表情だ。プラハトはそこまで言うと、口を閉ざした。いつの間にか、クロエがアルニムの後ろに立っている。
 そうか、そう言う事か。勝手に少女は納得した。
 「こほん。話が大幅にそれちゃいましたね。
  本題に戻りますよ、時間稼ぎは十分でしょうし」
 態とらしく咳をしてから、アルニムにウィンクをして見せた。
 「お見通しって事か。
  良いぜ、今回の狙いを言ってやる。
  女王の暗殺を頼まれた。貨物船だと思って襲ったら、女王が居たんだ――と、やれってな」
 アルニムの言葉が終わるか終わらないかの瞬間、巨大エネルギーがフロイラインを襲った。しかし――
 「アルニム!
  どうしてタイラーを撃ったっ!?」
 何事もなかったかのように、ただ質問を投げかけるレープハフトの姿が映し出されていた。攻撃を先読みしていたフロイラインはバリアを張ったのだ。それもオプファー・バリアを。
 「防ぎやがったか。
  あれは、単に邪魔だったからだ。特に理由はない」
 レープハフトは少し息切れを起こしているようだった。やはり負担が大きいのだ。あのシステムは……。
 「それだけの理由かよっ
  あいつは……くそっ!」
 「マスター、レゲンティンにインフォースが合流。
  通常航界を始めました」
 プラハトがそっと耳打ちした。彼は軽く息を吐き、画面を見つめた。その瞳にあるのは、闘志。
 「とりあえず、お前は始末しなきゃなんねーよな」
 「あ、待って。マスター」
 プラハトが彼を制止する。不思議そうに彼女を眺めるが、少女はただ首を横に振るだけだった。
 「アクティヴィーに告ぎます。
  フロイラインが直々に相手をしてあげますから、少し待っていて下さいね」
 通信越しに、不敵に笑う少女を見たアルニムは嬉しそうにした。逆に、後ろから聞こえてきたその声にレープハフトは驚いた。
 「おい、プラハトっ?」
 「オプファー・システム、オフライン。
  エンゲージ・システム、オフライン」
 反論はさせないとばかりに、直ぐさま少女は彼の権限を奪っていく。マスターであるはずの彼はただ何もできず、声を荒げるだけだった。
 「何をしている!」
 「マスターの権限を一時剥奪いたします。
  そこで、静かに見ていて下さい」
 レープハフトの座っている座席に出現していたコマンダー類が全て撤去される。
 「フロイライン、再起動。
  ……システム、オールグリーン。
  プラハトが、フロイラインを解放します。
  第二次戦闘態勢、準備完了。目標、アクティヴィー。
  目標座標、X六-Y一〇」
 周りの壁であった部分が透明にでもなったかのように、船外の宇宙空間を映し出してゆく。
 「マスター、あなたをこのまま戦わせると、あなたの生命維持活動に支障をきたします。
  だから私が、代わりにミッションを遂行します」
  そう言うプラハトの表情は硬いが、高揚した雰囲気を出していた。
 「久しぶりだわ……
  こうやって、戦うの」
 下唇を軽く舐めると、うっとりとした様子で息を吐いた。そしてレープハフトの頭の側に顔を寄せる。
 「マスター、ちゃんと見ていて下さいね。
  これが私たちの戦い方です。
  いずれはあなたもこうして戦う事が出来るようになります。
  だから……少しの間、我慢していて下さいね」
 少女は青年の頭をゆっくりと撫でた。いつになく優しい口調の少女に対し、もはや言える言葉はなかった。彼女はこの後に何が起きるかを知っている。青年は……何が起きるかは分からなかったが、嫌な予感をずっと感じ取っていた。
 「プラハト?」
 「大丈夫です。
  私が、ちゃんと護ります」
 彼の不安を、別の意味で取ったのかプラハトは微笑んで答えた。一層レープハフトの嫌な予感が大きくなる。しかし今の彼には何も出来なかった。そうしている内に、少女が姿勢を正した。
 「アクティヴィー、待たせましたね。
  準備が終わりました」
 通信はもはや音声のみとなっていた。きっと映像を受け取る事すら稼働率に関わっていたのだろう。少しでも素早く、少しでも負けないようにするためには不必要な部分を削る……そういう事なのだろうとレープハフトは解釈した。




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