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Humanisation Human-type Project
    第一章「突発的な部署変更」
 第二話:束の間の休息、再度の邂逅 V


 夕飯を食べ終わり、一通りの片付けが終わると二人はファッションショーを始めた。ベッドやらデスクやらに衣服が何着も広げられている。
 「これ、どうかなぁ?」
 「それよりこっち合わせた方が流行に乗っているけど」
 ああでもない、こうでもないと二人は盛り上がっていた。デートではなく、別に三人で出かけるのだからおしゃれする必要性は不明だ。だが、柚香がそうしたいと言うのだから仕方がない。
 そもそも、おしゃれにあまり気を遣わない柚香におしゃれさせるのは二式の楽しみでもある。折角頼ってもらえているのだから、存分に自分も楽しむと決めている。
 「ラッセル兄さんと出かける時に、あまり着ない傾向とかどうかな」
 「ナイス、ジュニア」
 そう言うなり、柚香はまだ開けてなかった扉を開けると中身をひっくり返した。実の所、柚香はこう見えてもおおざっぱである。普段、細々とした作業であるプログラミングや些細な部分も見逃せないAIの心理分析をしている人間であるとは思えない。
 更に言うと、これを片付けるのは彼女ではない。二式である。二式はそっと彼女に気付かれないよう小さく溜め息を吐いた。
 「柚香、これどう? きっとラッセルも気に入るよ」
 そうして二人はファッションショーを続けるのだった。



 結局、コーディネートが終わったのは24時を少し過ぎた所だった。そのおかげか柚香は上機嫌で家を出たのだった。
 待ち合わせ場所としてラッセルと柚香が決めたのは、最近人気が出てきた新東京都のE地区である。ここには人気が出る原因とも言える大きなタワーがそびえている。このタワーは防衛軍の機体が出てくるLuke(ハッチ)となっている。ごく偶にここから『Gottheit(神 の) Abgesandte(使  者)』シリーズの機体が飛び出す。それを一目見たいと、人間が集中するようになったのだ。
 当初、それが決定した時にラッセルと柚香の二人は攻撃して下さいと言っているようなものだと不安に思っていた。勿論、そう考えた組織の人間は多い。多いが、上の決定である。逆らえるわけがない。
 取り敢えずまだここに攻撃が来ない所を見ると、上部の判断は正しかったのかもしれないと思い始めてきた二人は、この場所を待ち合わせ場所にしてみたのだった。
 時間丁度に現れた柚香と二式に、十分程前から待ち合わせ場所で待機していたラッセルは声を掛けた。
 「さっすが、ジュニア。
  昨日はお前も大変だったんじゃないのか?」
 ラッセルをそのまま幼くしたような容姿のヒューマは、彼に撫でられてうっとりしている。それもそうだろう。二式にとってラッセルは父のような存在であるからだ。あまり直接頻繁に会う事の出来ない二式とラッセルは、会える時にはかなり互いを大事にする傾向にあるようだ。柚香にとってみれば、かなり微笑ましい光景である。
 「大変だけど、それが僕のお仕事だから」
 そう言う二式は誇らしげである。少しだけ、昨日の自分のやった事を顧みて柚香は俯いた。そういえば、片付け全部ジュニアに任せてしまったんだった。
 「ジュニアがいなくなったら大変な事になりそうだね、お姫様」
 くすりと笑う彼を恨めしそうに見ると、柚香は気分を変えようとするかのように辺りを見回した。
 「それにしても、人気ね……」
 「そりゃそうだよ!
  僕、一度は来てみたかったんだぁ」
 子どもらしくはしゃぐ二式に二人が笑う。無邪気な笑顔とは、こういうものを言うのだろう。本当に嬉しそうだった。



 辺りには、ヒューマを連れた人間が多く歩いていた。ヒューマは普通のロボットよりも価格帯が高い。人工皮膚や表情を作る為に、必要なプログラムや回路、素材の値段が高いからである。AIにも表情を作る為に必要なプログラムを組み込んである。表情を持たないロボットには必要無い。今まで汎用性の高いプログラムの開発がなかったのが理由だ。
 「柚香、僕の親戚がいっぱいいるね」
 「そうだね。まぁ……かなり遠い親戚だけど」
 ヒューマを見るのが面白いのか、柚香達の買い物中もレストランに入ってからも、二式はずっとヒューマばかり目で追っていた。因みに、二式は特別に食物を少し食べられるように設計してある。その特殊さを生かし、様々なメニューを味見して家で同じような物を作る。柚香は食べる事が好きだ。そのせいもあってか二式は執念深いくらい料理に取り憑かれていた。それよりもヒューマの観察を優先させていた辺り、ラッセルには興味深く映った。
 「そんなに他のヒューマが気になる?」
 「そりゃもちろん!
  僕や、弟妹が特別だって言われてもピンと来ないから、何が違うのか見れば分かるかなって」
 実の所、二式に使っているAIはその辺りにいるヒューマのそれとは全く違う物である。更に言うと、ボディは防衛軍に所属していた彼女の両親が創り上げた物で一般で売られているヒューマに使っている部品ではなく、両親の職場から持ってきた部品を使って創りられた。
 分かりやすく言えば、二式自身が軍事用という事になる。元々軍事用に作ったわけではないから、彼女の手元に二式が残っているのだが。このAIのおかげで彼女は『Gottheit Ubgesandte』シリーズの端末に使うAIの管理者になったと言っても過言ではない。
 「でも。分かんないんだ」
 「そりゃそうよ」
 柚香は口に運んでいたペペロンチーノを飲み込んでから言った。ラッセルは彼女がどこまで言うつもりなのか、素知らぬ顔で紅茶を飲みながら様子を見ている。
 「あなたは、私がいっちばん最初に作った大切な子なんだから。
  具体的に何が違うかと言われたら、向こうはみんなの分かる言葉で書いてあるけど……
  あなたは私しか分からない言葉で書いてあるって事くらいかしらね」
 それ以上の事は言うつもりないのか、ペペロンチーノとの格闘に戻ってしまった柚香に二式が呟いた。
 「知ってるよ、それくらい。
  柚香が知らない所まで知ってるつもりなんだけど……
  でも、やっぱり僕らが特別だなんて」
 ラッセルは見てしまった。その時の二式の表情を。どこか寂しそうで、そして伝えたくても伝えられない切なさの入り交じった複雑な表情だ。こんな複雑な表情ができるヒューマなど、知らない。彼は柚香やその両親の能力に密かに恐れを抱いた。



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