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Humanisation Human-type Project
    第一章「突発的な部署変更」
 第二話:束の間の休息、再度の邂逅 W


 「しっかし、目立つハッチにしたよねぇ……」
 一通り買い物も終わり、目印としていたタワーの前に戻ってきた。二式は結局あの後もはしゃぎ通しだった。可愛いヒューマがいただのと騒いだ事もあった。そんな様子を始終楽しんでいたのはラッセルだった。
 「確かに。でもさ、ここから機体が出てくるって言われたら俺は見てみたいな」
 「でも実際にここから出てきたりしたら……私達危険じゃない?」
 柚香の考えは最もだった。そんな彼女にラッセルが文句を言う。
 「分かってないなぁ。
  リアルであったら嫌だけど、一度で良いから近くで格好いい姿を見たいという願望だよ!」
 「もー……そういう事言ってると警報が鳴ったりして」
 そんな事を言いながら柚香が笑う。二式はまだきょろきょろと周りのヒューマの観察をしていた。彼女はそんな二式の頭をぽんと叩く。不思議そうに見上げた彼に、そろそろ帰ろうと声を掛けた。
 満足そうな表情の二式は右手に柚香、左手にラッセルの手を握って歩き出す。さながら親子のように。
 しばらく駅に向かって歩いていると、二式が急に立ち止まった。訝しがる二人と繋いでいた手を離し、覆い被さるように二人に抱きついた。猛烈なタックルを受けた二人は尻餅をつく形になってしまう。
 「どうしたの? ジュニ――」
 柚香の言葉が終わらないうちに、二式の動きの理由を理解したラッセルが二式の下で柚香に覆い被さる。
 次の瞬間、ゴウッという大きな風と共に一つの機体がタワーから飛び出した。
 「あ。フリッツだ」
 何事も無かったかのように言う彼女に、覆い被さっていた二人が起き上がる。
 「何だ、攻撃受けるのかと思ったのに」
 「僕はただ……風で二人が吹き飛ばされないようにしたかっただけなんだけど」
 恥ずかしそうにするラッセルと、バツが悪そうに目を逸らす二式の背後をGottheit AbgesandteV号機が旋回していた。警報はなっていない。ここはまだ戦闘区域ではないという事を示しているはずである。しかし、『フリッツ』はここから移動する動きをしていない。不自然であった。
 「こちらGottheit AbgesandteV号機、フリッツのKern。
  この地点に向けて高速移動物体を確認しました。
  F地区でGottheit AbgesandteY号機のカイラムが待機していますが、念の為こちらの地区にいる皆さんも待避して下さい」
 「お兄ちゃんだ」
 柚香が首を傾げていると、V号機のKernである英一朗の声が辺りに響き渡った。『カイラム』の次に人気があるのがこの『フリッツ』である。彼らを一目見ようと待避するどころかわらわらと人が集まってきた。逆効果だったようである。
 「待避して下さい。
  これは防衛軍からの通達です。
  待避せず、戦闘に巻き込まれた際の保証はありません」
 二式が、何か思いついたのか機械語で話し始めた。人間に聞こえる種類の物ではない為、柚香にも聞き取り不能である。ついでに彼は自分の荷物の中からPCを取り出して電源を入れる。電源が入った途端、二式の機械語によって即席のテレビ電話になった。
 「うぉ、ジュニアじゃん。
  って事は柚香もいんのか?」
 驚いた様子の英一朗にラッセルが俺も、と身を乗り出した。
 「どうした? この機体にハックしてくるとは良い度胸だ」
 「お兄ちゃん、一旦身を隠して警報ならした方が良いと思う」
 二式の意図に気が付いた柚香が兄に進言した。英一朗の後ろに立っていたフリッツが彼女の言葉に反応して口を開いた。
 「英一朗、柚香殿の意見を取り入れては。
  この機体を一目見ようとする人間が増えていく一方だ」
 その言葉に英一朗が頷くと、『フリッツ』の旋回行動が止まった。それを見計らったかのように、その左翼へと何かが突っ込んだ。
 衝撃以上に鼓膜をつんざくかのような大きな音が辺りに響く。近くに集まってきていた人々が叫び声を上げながらシェルターの方に向けて逃げ始めた。
 「うおっ
  ちょ、これやばくね? これ、始末書行き??」
 「さぁ、俺には分かりかねる」
 慌てる英一朗と呆れ気味のフリッツのやりとりがあり、二式がそれを見てくすりと笑った。
 「柚香! まぁ、そんな事だからお前も早く逃げろよ。
  ってうおわぁ!! なんだこいつら特攻型の爆弾か!?」
 「市街に降る前に何とかするしかないようだな」
 『フリッツ』が大きくて目立つせいか、今は攻撃がそちらに集中しているようだ。しかし他にも大きくて目立つ物がある。
 「柚香、ラッセル兄さん、僕嫌な予感がする」
 「あ。やっぱり?」
 画面上でぎゃぁぎゃぁ叫んでいる兄を尻目に、柚香達は辺りを見回した。予想と違わず、同じように攻撃を受けている物があった。タワーである。
 「これ、倒れてきたらどこら辺までくるかな?」
 「僕たちのいる所は確実アウトだね。計算上は」
 「一発で死ぬな、それ」
 ラッセルの一言を最後に、三人は全速力で走り出した。その間もタワーは攻撃を受けて、傾きつつある。
 「こんな死に方だけは絶対に嫌だ!」
 三人の切実な思いだった。その思いに応えるかのように、破壊されそうなタワーのハッチからもう一機が飛び出してきた。X号機の『ジュール』である。三機――うち一機はやや遠い所で応戦中――が出動となったようである。が、しかし。
 間抜けな事に、『ジュール』をここから出動させた事がこのタワーのとどめとなったのだった。



 何故こんな事になったのだろう。今の柚香は正直にそう思った。運が悪いとしか思えない。それもここ最近。
 柚香は『カイラム』の中にいた。ラッセルと二式も一緒である。
 とどめを刺されたタワーは、無残な姿となってばらばらと地上へ降りかかる事となった。そんな所へ一筋の光が放たれた。『カイラム』がこちらに向かって移動してきていたらしい。この光は彼のStrafe Kanon(シュトラッフェカノン)――通称鉄槌の砲――である。Gottheit Abgesandteシリーズの主砲的存在であるこれは、結構な破壊力があり、ばらばらとなったタワーは殆ど消滅していた。だが、一部は破壊を免れて大きな欠片としてまだ空中に存在していた。
 その真下にいたのが柚香達である。本当に運がない。
 あわやという所でそれに気付いた『カイラム』が自らの機体で彼女らを庇う。それで一部が大きくへこんだようだが、本人は気にしていなかった。気にするどころか、本体から端末が離脱してこちらにやってきた。本体の方は、交戦を続けている。
 「柚香、ラッセル……とそれに似たヒューマ。
  ここは危険だ」
 「分かってるわよ」
 間髪入れずに柚香が応える。どこか、カイラムはうきうきしているようだ。もう会えないと思っていた人間が目の前に現れたからだろうか。ラッセルは遠くを飛んでいる本体を見ていた。本来ならば、戦闘中に本体と端末が別の場所で活動する事はない。視点が2つになる為、動きにくくなるからだ。
 「もうすぐあいつらの足止めの用意が終わります。
  終われば、こちらに来ます」
 来る、というのは本体の事だろうか。柚香はぼんやりと考えた。隣にいる二式は久々に見た弟に昂奮を隠せないようだ。そうしている内に、本体がこちらにやってきた。
 コックピットへの扉が開き、カイラムが柚香を抱える。それに習って二式はラッセルを抱えた。二人の困惑した声がヒューマの耳に響く。浮遊感が人間二人に訪れ、次の瞬間にはコックピットの中にいた。
 柚香はKern用の座席に座らせられ、ラッセルは二式に抱きつかれるようにして固定される。そして今に至る。
 その時にして、ようやく柚香は自分の運の悪さに気が付いたのだった。



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