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【九月】犬と宰相

 「おや?こんな所に犬が……」
 ライアスは偶然にも一匹の犬を見つけた。
 「くぅん…」
 どうやら人なつこい犬のようだ。足下にすり寄ってきた。
 「どこから来たか聞いても、答えられないだろうしなぁ…」
 困った顔をするライアスに犬は不思議そうな顔をしていた。その間も犬のしっぽは大きく左右に揺れている。
 犬に見つめられる内にライアスはとうとう観念した様で犬の頭を撫で始めた。
 こうして、犬の飼い主捜しが開始されたのだった。
 自室へと連れてくれば「くぅん…」と鳴き、あちこちのにおいを嗅ぎ始めた。
 「おや?お腹が空いたのかな…」
 ライアスは適当に犬が食べれそうな物を用意してやった。犬は美味しそうに全て食べてしまう。
 「よしよし。それにしても君の本当の家はどうなんだろうね」
 なでなでされると犬も気持ちがよいらしく、おとなしくしている。
 「早く、飼い主を見つけてあげるからね」



 「ライアス、どこにいたのよ?
  今日のお勉強はお休み?」
 ライアスがフィリオーネの部屋に入ってくると、フィリオーネはつまらなそうに聞いた。
 「今日のお勉強は、慈善活動ですよ。フィリオーネ姫」
 「は?」
 フィリオーネは思わず姫にしてはとても間抜けな声を上げた。
 「この犬は今朝城内で見つけたのですが、どこから来たのか、誰が飼い主なのか全くわかりません。
  なので、飼い主を見つけてきてください。
  私はこの子にご飯をあげたりして面倒をみていますから」
 あまりにも爽やかに言い、そして柔らかな視線で犬をみているライアスを見たフィリオーネは少しの間呆然としていた。
 「ほら、フィリオーネ姫、頑張っていらっしゃい」
 「えええええええええ」
 「文句ありますか?」
 「あるわよ。大あり。というか、何で私が!?」
 ライアスは微笑み、言い放った。
 「姫たる者、慈愛に満ちていなければどうするのです。
  さぁ、この犬と飼い主に対する愛情があれば何とかできるはず」
 フィリオーネは脱力し、そのままトボトボと部屋を出ていった。



 結局の所、飼い主もいた場所も見つからずライアスが引き取ることになったのだった。
 「姫もこの子の遊び相手になってあげてくださいね」
 「はいはい…」



 【十月】城下町へお忍び

 フィリオーネは城下町にいた。
 「この空気、久々だわぁ〜」
 呑気なものである。実際、この間にライアスがフィリオーネを探して城内を走り回っていた。
 「あら、ここ……前とは違うお店になってる」
 危機感のない姫だった。



 「あ。このアクセサリー可愛い」
 「あ、ひ……ヒルダ」
 同時に言ったのはフィリオーネとライアス。ライアスは「姫」と言いそうになったのを辛うじて言わないでいたが。
 「何、そのセンスのない名前…」
 「すみませんね。それよりも、なぜこんな所に?」
 普通、姫はこんな所に来ないのだ。来ているはずがない。
 「気分転換よ。ダメかしら?」
 ダメかしら?と聞かれても、ライアスは普通はダメだろうと突っ込みたくなって、そのまま突っ込んでしまった。
 「だめかしらって……あなた自分の立場、分かってます?分かっていないでしょう」
 「分かってるわよ。だからこうして町娘みたいな服を着ているんじゃない」
  あぁ、そういう問題じゃないんです。何でそんな簡単なことにも気がつかないんですか姫。これでは誘拐してくれと言っているようなものだと何で気がつかないんですか。と頭の中でぐるぐると回っているライアスは、可哀相だった。
 「はぁ……あまり意味の無いように思われますが。
  しょうがないので、私があなたについて行きます。
  いいですね?ヒルダ」
 そして、さぁどうぞという風に外へと誘導するライアスだった。



 「わぁ……すてき。この指輪、気に入ったわ」
 「そうですか。では……」
 ライアスはそう言うと、フィリオーネの手からその指輪を取り、どこかへ歩いていく。
 「? ちょっと」
 「これお願いします」
 そして指輪を買ってしまった。その上、フィリオーネにプレゼントしたのだ。
 「えぇぇぇぇぇ!?」
 「大丈夫ですよ、安心してください。  これ、私のポケットマネーからですし」
 さぁ、どうぞとフィリオーネの右薬指に填めた。
 「あなた、絶対おかしいわ」
 「まぁ、姫が大好きなもので」




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