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【十一月】宰相不在
「おかしい……」
フィリオーネは唸っている。そして、自室でうろうろしていた。
「何で、いないのぉ…?」
いつもなら「お早うございます、フィリオーネ姫」って来るのに……
本日は〜〜のお勉強ですよって来るのに、何で来ないの……?
「突然、私を呼び出すとは何事です?」
不機嫌そうなライアスの声が室内に響く。
「元気にしているかと思ってな。ここ三年は戻ってきていなかっただろう?」
重低音だが、優しい声を持つ男が返事をした。呼び出した張本人である。
「そりゃ、そうですけれど…何もこんな時に呼び出さずとも。
間の悪い……」
ライアスは苦虫をかみつぶしたかのような顔をする。滅多に見せない顔である。
「何か都合の悪い事でも?」
男は楽しそうに問う。
「姫が……私がフィリオーネ姫に、何も告げずこちらに来てしまいました。
今日のお勉強はお休み?」
いつも付き添っていましたので、突然何も言わずに消えた事で不安がっているかもしれません」
その言葉に更に男は楽しそうだ。
「ほほう。お前はその姫が気に入ったのかね?」
「あなたの知る所ではありません」
どんどん機嫌が良くなる男と、機嫌が悪くなる宰相。端から見ると、これ以上ないくらいに気温が違う。だが、本人達からすれば(特に宰相)どうでも良いわけで。
「確かにお前が半年も同じ国に居座るなんて初めてだしな」
そして身を翻す。扉が閉まった後に残るのは男。
「全く、相変わらず熱いな。お前も……」
小さく室内に響いた。
「姫……ただいま戻りました。
あぁ、やはり眠っているか……」
フィリオーネの部屋にライアスは来ていた。そして、フィリオーネの寝室に入っていった。
気持ちよさそうに、と言うよりも不安そうに眉をひそめて眠っていた。ライアスがフィリオーネを優しく撫でると、ひそめていた眉が緩み少し微笑んだかの様に見えた。
「はぁ……全く、俺もどうにかしてるな……
夜に姫の寝室に入って何してるんだか……」
「………すぅ」
「すまない……こんな事に巻き込んで」
「………」
「俺は――……」
フィリオーネの寝室に小さくライアスの悲痛な声が響いた。
【十二月】小さなパーティー
「生誕の日、ねぇ……
結構私、つまんないからなー」
生誕の日というイベントが来ていた。国中で楽しそうな雰囲気が漂っている中、フィリオーネはあまり楽しそうではなかった。
「なぜです?」
「だって、私はただ座っているか、重臣や貴族の挨拶巡りとかなんだもの」
姫は本当につまらなそうである。顔をしかめている。
「確かに、姫もオトシゴロですからね」
ライアスは、そう言って茶化した。
「う…うるさいわね」
「くすくす」
当日。フィリオーネはかなり退屈そうだった。ライアスの方は、宰相という立場である事もあってライアス自身の貴族達への挨拶巡りや、その場のパーティーの状況把握や管理で忙しかった。
やっと少しの間時間が空いたライアスは、フィリオーネの所へとやってきた。そしてフィリオーネにしか聞こえないくらい小さな声で質問をした。
「姫、明日……一日…いえ、夜の数時間でも良いのでお時間いただけますか?」
「えぇ…良いわよ。でも、何で……?」
素直に承諾をしつつもフィリオーネはなぜなのかと疑問に思う。突然明日時間をくれというのだ。ダメならば夜の数時間でも、と。そこまで言われて拒絶できるわけもないが、不思議に思うのは当たり前の事だった。
「姫を、とてもとても小規模なパーティーにご招待させていただこうかと」
悪戯っ子のようにふざけて言うライアスにフィリオーネは驚いた顔を一瞬した。
「まぁ……!
楽しみにしているわ」
その後すぐさまフィリオーネは嬉しそうに微笑んだのだった。
姫は宰相の部屋にやってきていた。「扉を開く前に」と、ライアスは言った。
「姫がつまらないとの事でしたので、私と二人きりではあまり楽しくはないかもしれませんが……
出来る限り姫の楽しめるようにと考えて、小規模パーティーを考案させていただきました」
「つまらないだなんて…用意してもらえただけでも、私……すごく嬉しい」
素直なフィリオーネの言葉が聞けて満足したのか、ライアスは扉を開いた。
「わぁ…」
「もちろん、プレゼントも用意してありますよ」
そう言ってフィリオーネに箱を渡す。中身は、フィリオーネ好みそうなデザインのアクセサリーとドレス一式が入っていた。
「すごい、私好みのアクセサリーとドレス!!」
感激しながらも目で「でも本当に受け取っても良いの?」と訴える姫に宰相は微笑む。
「先月のお詫びもかねてですから……さ、存分に楽しんでください」
「これ……ライリーンとアスリーンの味がするわ」
クッキーを食べていたフィリオーネが呟いた。
「それは、私がクッキーに混ぜてみたらおいしいかもしれないと思って作ってみたんです」
微笑みながら「おいしいですか?」と聞くライアスに頷きながらもフィリオーネは聞いた。
「もしかして、これ全部――」
「私の手作りですよ。食べ物はね」
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